恋人の時間(九玲)

「そうだ、しりとりでもしないか」
「しりとりですか?」

今日は休日。いつもは九条家にお邪魔する事が多いのだが、今日は壮馬さんが私の部屋に来ていた。二人で座るには少し小さなソファに身を寄せ合いつつ、宮瀬さんが焼いたスコーンを二人で食べていた。
壮馬さんが来る時だけに出す、ちょっとお高い紅茶を飲んでいると壮馬さんが突然不思議な提案をしてきた。

「ああ、ぜひ。貴方としたいと思ってたんだ」
「いいですよ、やりましょう」

しりとりを私とやりたいと思っててくれたのかと思うとなんだかほっこりする。
頬を緩ませながら、私は頷いた。

「じゃあ、何から始めましょうか。しりとりのりからにしましょっか」
「ああ、そうしよう」tよ

なんだか少しだけ壮馬さんの目が輝いて見えるのはなぜだろうか。
先行は私、という事でりのつく言葉を思い浮かべる。あんまり難しい文字で終わらないように考えながら、私は口を開く。

「りす!」
「!」

まるでその言葉を待っていましたといわんばかりに壮馬さんの表情が光る。

「好きだ」
「え?」

壮馬さんが言ったのは私が想像していたしりとりではないようで…?
思わず面食らってしまうが、私の返答をわくわくと待っている壮馬さんに尋ね返す事なんて出来るわけもない。

「えーと……だ、ですよね? だ……」

どうしよう。壮馬さんに乗っかって返すべきなんだろうか。
ちらりと壮馬さんの顔を見ると、割ととてつもなく期待に満ちた目をしていた。

(これはやっぱりあの言葉を期待してるのでは!?)

壮馬さんは時々、こういう茶目っ気溢れる遊びをしたがる。多分これはテレビとかで見たんじゃないかな。お気に入りのドラマのワンシーンを再現する遊びも好きな壮馬さんの事だ、きっとそうに違いない。

「玲、思い浮かばないか?」
「……!! いえ、浮かびます、大丈夫です!」

あまりに時間をかけすぎてしまったようで、壮馬さんが不安げに私を見つめていた。これはもう覚悟を決めよう。私は膝の上に置いていた手をきゅっと握り、壮馬さんの方を見た。

「だ、大好きです! 壮馬さん!」

恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。今なら顔から火が出るかもしれないなどと考えていると、壮馬さんが嬉しそうに笑った。

「玲、『ん』がついてしまっているぞ。それでは終わってしまう」
「あ……ああ、そうですね!私ったらうっかり!」

勢いのまま壮馬さんの名前まで呼んでしまった。照れ笑いを浮かべていると、壮馬さんが私の肩をそっと抱いた。

「実は、この遊びは先日テレビでやっていたものなんだ」
(やっぱり!!)
「それで、貴方としたら楽しそうだなと思ったんだが、楽しいだけではなくて胸が弾むような気持ちになるな」
「壮馬さん……」

そんな風に思ってもらえるなら恥ずかしいのを堪えて挑んだ甲斐がある。
私は甘えるように壮馬さんの肩に頭を乗せた。

「それでは次はもっと続くようにやってみよう」
「え?」
「次の言葉はそうだな……玲。貴方の名前から始めようか」

そう言って、再びしりとりのような何かが再開される。
こうなったらいっそ壮馬さんを照れさせてやろう!と挑んでみるのだったが、結果は言うまでもなく私が散々赤面させられるばかりで。

壮馬さんには一生敵わないなぁと思いながら過ごす、そんなありふれた恋人の時間を私たちは今日も過ごすのだった。

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