お揃いのカップ(璃オラ)

手紙の配達も終わり、私は隠れ家へやってきた。
今日の手紙は三通。そのうちの一通は青のものだった。
青に足を運ぶと、会う人会う人に声をかけられ、璃空との事を祝福された。
それは彼が青の人々に愛されている証なのだと思うと嬉しく思った。
良い事がある日は、良い事が重なるようで、私は今日、素敵な買い物をした。
鼻歌まじりにそれを洗っていると、扉が開く音がした。
「オランピア、もういるのか?」
「璃空! おかえりなさい!」
「……! ああ、ただいま」
部屋に入ってきた璃空に向かってそう言うと、彼は一瞬驚いた顔をしたけれどすぐさま表情を崩した。
「今お茶を入れるから座ってて」
「ああ、ありがとう」
私はいそいそとお茶の支度をする。
そして、洗ったばかりのそれ――カップを乾いた布で綺麗に拭き、部屋に置いてあったカップと並べた。
そう、今日素敵な買い物をしたというのはこれの事。
部屋には自分とだいふくが使う分のカップとグラスしかなくて、とても人を招ける状態じゃなかった。それにここに訪ねてくる友人なんて私にはいなかったからそれで困る事なんてなかったのだ、今までは。
けれど、今はこうして璃空が来てくれる。
温かいお茶をこぽぽ……と注ぐと、茶葉の優しい香りが花開く。
丁寧にお茶を入れた後、私はカップを二つ持って璃空の元へと戻る。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。白夜、それは……?」
「うふふ、気づいた? 実はね、今日見つけたの!」
そのカップは白地にワンポイントで青のインクでキャラクターがあしらわれているもので、見つけた瞬間これだ!と思った。
「この模様は……鼠か?」
「そう! そう見えるわよね? ちょっとだいふくよりはスリムだけど、素敵だと思って買ってしまったの!」
今、この場にだいふくがいたら「そんな事ありません!」とふくよかな体で訴えてきたかもしれない。ごめんなさいね、だいふく。
そんな想像を璃空もしたのか、柔らかな笑みを浮かべた。
「しかし、このカップは一つだけか?」
「ええ、璃空の分のカップに買ったのよ」
「……店には?」
「まだ数点あったと思うけど」
「それだったらお前の分も買おう。俺の分だけなんて味気ないだろう。この鼠が気に入ったならなおさらだ」
「え? でも、私のカップはあるのよ」
「いや、そうだが……同じものを使うのも、悪くないだろう? いや、カップはたくさんいらないかもしれないが、多すぎて困るものでもない……はずだ」
十個も二十個もあったらさすがに邪魔になるかもしれないわ、と思ったがそんな事は口にしなかった。
だってこの部屋にあるカップは二つだもの。もう一つ……璃空とお揃いのカップが増えたってどうって事ない。ううん、それよりもとても幸せな気持ちになるかもしれない。いや、きっとなる。
「素敵な提案ね、璃空! ありがとうございます。今度見かけたら買う事にするわ」
「……いや、実は」
そう言って、少しだけ気まずそうに璃空は持っていた袋からドン、と何かを取りだしてテーブルの上に置いた。
それは――
「あら? これって」
「俺も今日見つけたんだ。お前が喜びそうだと思って……」
私が買ったものと全く同じカップだった。
カップと璃空の顔を交互に見て、私は小さく噴き出した。
「うふふ、同じ日に同じものを買うなんて、素敵なめぐりあわせね」
さっき想像したよりも、私の心はずっとずっと幸福で満たされている。
お揃いのものってこんなに素晴らしいものだったのね。
「貴方といると、知らなかった事たくさん知っていくわ」
「それは俺もだ。誰かのために何かを選ぶ事が楽しいなんて知らなかった」
「……!」
「あ、いや。……くそ、余計な事を言ってしまった」
「ううん、余計じゃないわ。すごく嬉しいもの! 今だってね、飛びつきたいくらい嬉しいの」
そんな事をしたら璃空が驚いてしまうからぐっと我慢しているだけなの、と笑うと璃空の顔が赤く染まった。
「それは……俺も堪えていたものだ」
「え!?」
いつの間にか、私たちは同じような事を考えるようになったのだろうか。
一緒の時間が増えていくと、そんな素敵な事が起きるのね。
貴方を好きになって、知らなかった事を一つ一つと知っていって、愛というものの形が私の中で輪郭を帯びていく。

私が飛びつくと、璃空は嬉しそうに私を抱きしめた。

お揃いのカップが寄り添うようにして、そんな私たちを見守ってくれるのだった。

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