あいしてるげーむ(鴉紅)

「ねえねえ紅百合ちゃん」

ある日の事。
今日の探索も終え、夕食も食べ終わり、自由時間をみんな思い思いに過ごしていた。
私はソファに座り、新しい本を読むべく、開こうとしていたところでどこからともなくやってきた鴉翅くんがやってきた。
ぽすんと私の横に腰を下ろした鴉翅くん。距離がとてつもなく近い。

「か、鴉翅くん。ちょっと近すぎるんじゃないかな」

そう言いながら私はお尻をあげて、拳三つ分くらいの距離をとる。

「えー、そうかなぁ?だって紅百合ちゃん、良い香りするし、近くの方が安心するかなーって」
「うーん……この距離でも十分近いと思うんだけど」

ずいっと近づいてくる鴉翅くん。折衷案として、拳1.5個分の距離になったけど、それでもやっぱり近い。私は本を胸に抱えて、鴉翅くんの方を向いた。

「そんな露骨にガードされると傷つくなー。まあ、いいや。あのさ、『愛してるゲーム』って知ってる?」
「あいしてるげーむ?」
「うん、知らなさそうだね。ルールはいたって簡単。愛してるって言われて照れたら負け。ねえ、せっかくだからやってみようよ」

何がせっかくなのかはわからないが、鴉翅くんは非常にノリノリだ。
でも……

「うーん、やめておこうかな」
「え、どうして?」
「だって、その……愛してるって言葉は大事な人に伝えるものでしょ? だからそういうゲームで口にするのはちょっとなぁって思って」
「……紅百合ちゃんにはいるんだ? 愛してる人」
「それは分からないけど…」
「ふーん」
「わ、私部屋に戻るね!」

なんだか気まずくて、私はソファから立ち上がると、鴉翅くんが私の腕をつかんだ。

「わっ!」
「ねえ、紅百合ちゃん。愛してるよ」

そう言った鴉翅くんはいつもと違った空気をまとっていて、なんだかとても――本気のように思えた。
じわじわと頬が熱くなる。重苦しい沈黙を破る言葉を探しているのに、言葉を紡ごうとする唇からは結局何も語られず、ぱくぱくとするだけ。

「ぷっ、紅百合ちゃんの負け!」
「!! やらないって言ったのに!」
「本気に受け取っちゃった? それでも全然良いんだけどさー」
「私、もう寝るから! おやすみ!」

鴉翅くんの手を振りほどき、私は自室へと駆け込む。
まだ心臓がうるさい。私は背中を扉に預け、ずるずるとその場に座り込んだ。

「明日どんな顔すればいいんだろう」

無意識に鴉翅くんの言葉を反芻し、私は再び顔を赤らめるのだった。

 

「……いや、あんな可愛い顔するの反則でしょ」

ゲームだってあらかじめ言ってるのに。
それなのに顔を真っ赤にして、俺を見つめた彼女はどうしようもなく可愛くて。
彼女が部屋に逃げ帰ってくれて助かったと熱くなった頬に触れながら、そんな事を考えていた。

 

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