恋人にキスをせがんでみた~山崎カナメの場合~

「カナメくん、キスしてもいい?」
カナメくんの肩がぴくりと反応する。運転中のカナメくんはちらりとこちらを見て、ため息をついた。
「今は駄目」
「えー、カナメくんのけちー」
「玲さん、大分飲んだでしょ?」
「そんな事ないよ! お付き合い程度にかるーく飲みました!」
「その返事がどう聞いても酔ってる人なんだよね」
今日は大学の頃の友達と女子会だった。楽しくお酒を飲んだ私を頃合いを見て迎えに来てくれたカナメくん。酔っ払ってふらふらとしている私の腰をがしっと抱き、「玲さん、しっかりして」と耳元で囁きつつ、車に私を乗せると買ってきてあったお水をしこたま飲まされた。この一連の流れでもはや胸キュンだ。頼りになりすぎる年下の恋人に私はすっかりメロメロでお酒に背中を押されて、いつもなら恥ずかしくて口が裂けても言えない事を言ってしまった。けれど、全然相手にしてくれないカナメくん。(運転してるからそりゃそうだ) しばらくして、信号が赤に変わるとようやくカナメくんがこちらを向いた。そう思った瞬間、後頭部を引き寄せられ、唇を塞がれていた。唇の隙間から入ってくる熱い塊を夢中で味わうと信号が青に変わるのだろう。唇が離れてしまった。
「あ……」
「…そんな可愛い反応して、俺を煽らないで」
「だって」
しゅんと肩を落とすとカナメくんはふっと小さく笑う。
「今日の玲さん、なんだか子供みたい。酔っ払いってそういうものなのかな」
「子供じゃないです! 大人です!」
「じゃあ、大人ならこの後行く先変えてもいいよね?」
そう言って、横目でこちらを見るカナメくんの瞳は熱が籠っていて、それに気づいた瞬間ぞくっと肌が粟立った。
私はこくりと頷くしかない。
「玲さんが大人だってこと、後でちゃんと教えてね?」
そう言って笑うカナメくんは男の人の顔をしていた。

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