恋人にキスをせがんでみた~桐嶋宏弥の場合~

「宏弥さん、キスしてもいいですか?」
九条邸にお邪魔すると、ちょうど日課のランニングから帰ってきた宏弥さんと鉢合わせた。シャワーを浴びてくるから部屋で待っててほしいと言われ、宏弥さんの部屋のソファに大人しく座って待っていた。何度も来た事はあったけど、一人でいるのはこれが初めてだ。そわそわとしながら部屋主のいない部屋をきょろきょろと見回す。
(あんまり見ちゃ失礼だよね)
そう思いながらも視線は泳ぐ。部屋の中は宏弥さんの香りがして、それだけで落ち着くような逆に落ち着かないような気分になる。そうやって悶々と過ごしていると、シャワー上がりの宏弥さんが戻ってきた。
「待たせたな、玲」
髪はまだ濡れていて、下ろした状態だ。それだけでもいつもと印象が変わって見える。ずきゅんと胸を打たれた気持ちになりながら思わず胸を抑える。そこで冒頭の台詞だ。思わず煩悩が駄々洩れてしまったのだ。
「おう! いいぜ」
そう言って宏弥さんはにっかりと笑う。
「それではお言葉に甘えて……」
私は立ち上がり、宏弥さんの傍に近づく。目を閉じてキス待ち状態の宏弥さん。しかし悲しい事に背伸びをしても、宏弥さんの唇に届かない。
「こ、宏弥さん……屈んでもらってもいいですか?」
「あ、悪い悪い」
そう言って屈みながらパチリと宏弥さんは目を開けた。思いのほか近い距離に移動してきた顔にお互い驚いて、「わっ!」と声を上げてしまう。
「はは、びっくりしたな!」
「宏弥さんがいきなり目を開けるから!」
「じゃあもう目開けないから早くな」
「え?」
「だって玲からキスしてくれるんだろ? 可愛すぎるから終わったら俺からもキスさせてくれ」
「~っ!」
トキメキで殺されそう。宏弥さんからのキスが早く欲しいから私は短いキスを宏弥さんに贈った。

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