昼休み。
一緒にお弁当食べたい食べたいという凝部くんを完璧にあしらい、獲端くんは私の手を取って屋上へと移動した。
(…手、ずっと握ったままなんだけど良いのかな)
ここに来るまでも何人かの生徒とすれ違い、その度に視線を感じたけれど獲端くんは何も言わず、屋上を目指すだけだった。
「獲端くん」
「ああ、なんだよ」
八月の屋上は日差しが眩しい。
そのせいか私たち以外の人の姿は見当たらない。
いつも使うベンチに座ると、獲端くんが舌打ちをした。
「え、今舌打ちされるような事した!?私」
「してねぇ」
「ええー、じゃあなんで舌打ち…?」
「言うの忘れただけだ」
「何を?」
「それ寄越せ」
そう言って、獲端くんが要求したのは私のお弁当だ。
何がしたいのか分からず、お弁当箱を渡すと獲端くんの横に置かれる。
「これは俺が後で食べる」
「え? じゃあ、今は?」
獲端くんは盛大なため息をつきながら、今日手にぶら下げていた大き目の紙袋を私にぐいっと手渡した。
「見てもいいの?」
「良くなかったら渡さねえだろ」
「一応マナーとして尋ねたんです!」
承諾を得たので、紙袋の中を覗き込む。
そこにはホールケーキでも入っていそうな箱が入っていて、私はまさかなと思いながらそれを開けた。
「-!」
そのまさかだった。
箱の中には猫の顔の形をしたホールケーキがおさまっていて、早く食べてと言わんばかりに私を見つめていた。
「可愛い!!! どうして!?」
「お前、そういうの好きだろ」
「好きだよ!すっごい好き!」
思わずテンションが上がってしまい、食い気味に頷く。
獲端くんは私の反応が嬉しかったのか、口元が緩んでいるのを見逃さなかった。
「今日は何日だ」
「え?」
今日は私と獲端くんが付き合うようになって一年の日だ。
きっと獲端くんは記念日とかお祝いするの好きじゃないだろうなと思い、私は何も言わなかった。
だけど、獲端くんは覚えていてくれた。
「ど、どうして……」
「お前、こういう事好きだろ。好きな奴喜ばせるためなら俺だってこれくらいする」
「こんな事出来るの獲端くんくらいだよぉ」
「大げさ」
獲端くんが私の事を想って、用意してくれたケーキ。
嬉しくて仕方がなくて、気づけば私の目から涙があふれていた。
獲端くんは小さく舌打ちすると私の頭を抱き寄せ、自分の肩口に押し当てる。
「お前は黙って、これからも隣で笑ってろ」
「…しゃべっちゃダメなの?」
「うるせえ」
そう言って私の涙をぬぐってくれた。
獲端くん、喧嘩もまだまだたくさんしちゃうけど。
これからもずっと隣にいたいと思う相手は獲端くんだけだから。
私が泣き止むまでどうか抱きしめていてほしいです。