呼ばれた気がしたなんて絶対言わない(淵関)

夜中、目が醒めた。
それは多分予兆。

外が一瞬明るくなる。
そうして激しい音が響いた。
私の苦手な雷だ。
布団の中で身体を抱え込むように丸くなり、ぎゅっと目を瞑って両耳に手を当てる。
それでも、外が明るくなるのと地響きのような音は防げなくて、より一層外の天気は荒れていく。

きっとすぐ天気は良くなる。
大丈夫。ここに雷が落ちるなんてないんだから。
何度も何度も自分に言い聞かせるけれど、不安も恐怖もぬぐえない。
雷が苦手なんて子供みたい・・・
そう思っていても苦手なものは仕方がない。

「おい、関羽ー」

きっと扉を叩いたのだろう。
両耳をふさいでいた私はそれに全く気付かず、私の了承もなく彼は部屋へ入ってきた。
名前を呼ばれたことに気付いて、そろりと目を開けると夏侯淵が私の顔を覗き込んでいた。
飛び起きるように私は身体を起こした。

「っ!夏侯淵!」

「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」

「・・・違うわ」

雷が怖いなんて言ったら馬鹿にされるだろう、と思うとなかなか言いづらく口ごもると
寝台へと腰を下ろして不思議そうな顔をしていた。

「じゃあどうしたんだよ」

「それは・・・」

その時だった。
再び窓の外が明るくなり、数秒置いて激しい音が響いた。

「きゃぁっ!」

先ほどよりも大きな音に思わず叫び声を上げて、傍にいた夏侯淵に抱きついていた。

「おい!」

少し慌てたような夏侯淵の声が私の頭上から聞こえた。

「ごめんなさいっ」

身体を離そうとすると、再び音が響く。
怖くて離れられない。

「雷が怖いのか?お前」

「・・・ええ」

「ったく、しょうがねぇな」

ぎゅっときつく抱きしめられ、片手は私の髪を優しく撫でる。
とくん、とくんと夏侯淵の心臓の音が聞こえた。

「雷が収まるまでこうしててやるよ」

「・・・ありがとう。でも、恥ずかしいわ」

「うるさい、黙れ」

ちらりと上目遣いに彼を見ると夏侯淵も少し顔が赤かった。
夏侯淵も恥ずかしいのに、私が怖がっているからこうしてくれているんだ。
そう思うと、さっきまで怖かった雷が気にならなくなる。
いつもいつも悪態ばかりついてくる夏侯淵がこんな風に優しいとなんだか意識してしまう。
黙っているのも余計意識してしまうので、私は口を開いた。

「そういえば夏侯淵はどうして私の部屋へ?」

「さあな」

「用事があって来たわけじゃないの?」

「用事がなくちゃ来ちゃ駄目なのかよ」

「え?」

「いいから!大人しく怖がってろよ!」

話すなと言わんばかりに更にきつく抱きしめられる。
さすがにそれは苦しくて、私は身体を離そうと夏侯淵の胸を押すが余計力が増す。

「ちょっ、苦しいわ・・・っ」

「あ、悪い」

今気付いたみたいに少し驚いたように夏侯淵は腕の力を緩めて私の顔を覗き込んだ。

「もう雷やんだみたいだな」

「あら、本当・・・」

気付けば外はまだ雨が降っているようだけれど、雷は止んでいた。

「もう大丈夫か?」

「・・・まだ、少しだけいてくれる?」

「しょうがねえなぁ」

やれやれ、と言いながら彼は子供のように無邪気に笑った。
もう怖くはないけれど、体温が離れるのが寂しくて、私は夏侯淵から身体を離せなかった。

「夏侯淵が来てくれて良かった」

「ん」

「でも、普段用事がないと私の部屋に来ないのにどうして?」

それだけがどうしても不思議でしつこく問うと、額を指ではじかれた。

「教えてやんねー」

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