午後のひととき(趙関)

昼下がり。
畑仕事も終わり、一息ついていた。
大きな木の下に座り、そのまま背もたれにして休んでいると、小さな声が聞こえた。

「にーっ」

「おや」

それは一匹の小さな猫だった。
茶色と白が混ざったような柄でくりっとした瞳が俺を見つめていた。

「おいで」

ふと微笑みかけると猫は呼ばれたことを理解したのか、小さな声をあげながら
俺の元へと近づいてきた。
膝の上に乗せて、顎の下を優しく撫でてやると気持ち良さそうな顔をしてくつろぎ始めた。

「趙雲」

名前を呼ばれて顔を上げると、そこにいたのは関羽だった。

「隣、良いかしら?」

「ああ、ここは心地良いぞ」

お邪魔します、と微笑むと関羽は俺の隣に腰掛けた。
膝の上にいる子猫を見て、関羽もわぁっ、と嬉しそうに声を上げた。

「可愛い、寝てるの?」

「ああ、そうみたいだ」

優しく撫でているうちに子猫は眠ってしまった。
規則正しく、腹が呼吸を示すように上下へと動く。

「趙雲って動物にもモテるのね」

「動物にもって」

「そういえば趙雲に差し入れ作ってきたの」

思い出したかのように持っていたそれを俺へ見せる。

「ちまき、趙雲好きでしょう?」

「ああ、関羽が作るものならなんで好きだよ。
ありがとう」

「もう・・・」

少し頬を赤らめた関羽からそれを受け取り、食べようとするが
片手は子猫を撫でるのに使っているため食べることが出来ない。

「なあ、関羽」

「なに?」

関羽の視線は俺から子猫に移っており、俺が困っていることに気付いていない。

「俺は片手が塞がっているんだが、良かったら食べさせてくれないか?」

「えっ!?」

「駄目か?」

驚いたように顔を上げた関羽と目が合い、俺は少し残念そうな声を出す。
食べたいが、子猫も撫でててやりたい。
そのどちらも叶えたいのは欲張りだったか。

「・・・趙雲、ずるいわ」

先ほど手渡したちまきを俺の手から取ると包みを外して、俺の口元まで運んでくれた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、いただきます」

差し出されたちまきを頬張ると、いつも関羽が作ってくれるそれの味が広がる。
関羽の手料理を毎日食べているうちにそれ以外のものを食べてた頃を思い出せない。
料理にこだわりはあまりなかったが、今は関羽の手料理だけ食べていきたいとさえ思ってる。

「どう?」

「ああ、うまいよ」

「良かった」

安心したように笑みを零す関羽が愛おしい。
差し出してくれてるちまきを全て食べ終えると、
空いてる手でそっと頬を撫でると関羽の耳がぴくりと動いた。

「俺は幸せ者だな。
愛おしいお前がこうやって傍にいて微笑んでくれる」

大変な事も沢山あった。
守りきれないのではないかと不安に胸が締め付けられた日もあった。
関羽が壊れてしまうのではないか、と。
俺の腕の中からするりと抜けて幻のように消えてしまうのではないかと考えたこともあった。
けれど、今はこうして穏やかな時間が流れる中で関羽と並んでいられる。

「私も幸せよ、趙雲」

微笑みあって、視線が絡まれば自然と顔が近づいた。
唇が触れ合いそうになったとき、

「にゃー」

膝の上の子猫が目を覚ましたらしく俺達を見ていた。
思わず二人で顔を見合わせ、噴出してしまった。

「見られてしまったな」

「ふふ、恥ずかしいわね」

子猫はまるで空気を読んだかのように俺の膝から飛び降りて、そのまま走っていってしまった。

「なあ、関羽」

子猫がいなくなり、俺の両手はもう自由だ。
関羽の肩をそっと抱き寄せると、関羽の体温が俺に伝わってくる。

「愛しているよ」

何度言っても足りない程にお前のことを想っている
そう言うと返事の代わりに何度目かの関羽からの口付けを貰った。

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