君の寝顔(蒼玲)

刑事というものは一度事件が起きれば解決するまで寝食を忘れて事件を追うものだ。
マトリもおそらくそうだろう。
俺たちはそういう生き方を選んだのだ。
後悔なんてない。
んだがーー
ようやく追っていた山が片付き、深夜二時頃に帰宅した。当然の事だが、家の中は静まり返っていた。二階にあがり、すぐ自室に戻ろうと思っていたんだが、玲の顔がみたくなって、自室のドアを開けようとする手が止まった。
(寝てる…よな?寝てるところの部屋に入るのはさすがにまずいだろ)
まずいと思いながらも、俺の足は玲の部屋の方向へと向かう。鍵がかかっていたら諦めようとドアノブを回してみるとあっさり開いてしまった。
(自分の他に住んでるの俺とサエコさんだからって不用心すぎるだろ)
そう思いながらも音をたてないよう、そろりそろりと部屋へ忍び込む。
何度か来た事がある部屋。ベッドに近づくと規則正しい寝息が聞こえた。
(久しぶりに顔、見れた)
起きている時に会えたらもっと嬉しいが、寝顔を見れただけでも儲けもんだろう。
そっと顔にかかっている髪をはらうと、「んん」と玲が小さく声をあげる。
「悪い、起こしたか?」
声をかけてみるが、返事はない。寝言だったんだろうか。少し残念な気持ちになりながら、もう少しだけ寝顔を見つめていると、「そーせーさん…」 と彼女の口から自分の名前が紡がれた。
「ー!」
俺の夢を見てるんだろうか。そう思うと柄にもなく、少し胸がときめいた。
「なんだよ、玲」
起こさないように小さな声で返事を返す。しかし、その後玲の口から飛び出した言葉は想像もしていない言葉だった。
「そーせーさんの、えっちぃ」
「なっ…!」
えっちってなんだ?起きてる時でもえっちだと言われるような事はほとんどしてないはずなのに。夢の中の俺は一体何をしてるというんだ。
動揺しているうちにごろんと寝返りを打った玲の手が俺の首に届く。ぬいぐるみを抱き抱えるみたいに強く俺を引き寄せた。
「ちょ、それはまずいだろ…!」
なんとか玲の手をはずそうともがくが、なぜか強く掴まれていて離す事ができない。
しばらく格闘してみたが、玲の甘い香りとここのところロクに寝ていなかったせいで睡魔がすぐそこまできていた。
「起きたら…夢の話、ゼッテー聞くからな」
覚悟しておけ、と眠る彼女に告げて、俺も目を閉じた。その日は夢もみずにぐっすりと眠った。

「えーと?」
朝、目をさますと私の腕はその場にいるはずのない人をしっかりと掴んでいた。
「どうして蒼生さんが…?」
首をかしげながら、恐る恐る彼の顔をのぞきこむ。すやすやと気持ち良さそうに寝てることを確認して、追っていた事件が片付いた事を理解した。
「お疲れ様です、蒼生さん」
そういえば夢で、蒼生さんに抱き締められた気がする。あれは夢だったんだろうか?それとも現実…?
分からないけど、気持ち良さそうに眠る彼を見つめながら、彼が起きるまでのんびり待とうと決める。
「ゆっくり寝てくださいね、蒼生さん」
私は誰にも見られてない事を確認してから、そっとキスを落とした。

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