恋人セラピー(司玲)

私の恋人は可愛い。
多分そんな事を職場の人間に言ったら笑われてしまうかもしれない。だって仕事をする彼は一ミリも隙がない男だから。
だけど、私だけが知っている彼の可愛い部分がたまらなく愛おしいのだ。
「クライナー、取ってきて!」
勢いよくフリスビーを投げると、クライナーは徐々にスピードをあげて、それを追いかけ、ちょうど良いタイミングで飛び上がってキャッチした。それはまるでドラマのワンシーンのようで、惚れ惚れする動きだ。
「よーしよし、お利口だね!クライナー!」
フリスビーをくわえて戻ってきたクライナーをわしゃわしゃと撫でると、私の背後に立っている恋人がなぜか咳払いをした。
「クライナーは第二陣を待ってますよ」
「司さんも投げます?」
「いえ、玲さんが投げて構いませんよ」
司さんの了承も得たので、私はさっきより遠くを目掛けてフリスビーを投げる。
その期待に応えるようにクライナーはまたもやフリスビーを華麗にキャッチ。戻ってきたクライナーをわしゃわしゃと撫でた。
「アニマルセラピーって本当に効果ありますよね」
クライナーと戯れてると日頃の疲れなんてどこかへ飛んでいくようだ。
クライナーは撫でられるのが気持ち良いのか、次第に甘えるようにごろんと横になる。
「はぁー、可愛い」
「玲さん、顔が緩んでますよ」
「いけない。ついつい」
「わふっ!」
二人と一匹で過ごす休日。私はささやかな幸せを感じながら大切さを噛み締めた。

その日はジンさんにクライナーを預け、夕方頃には司さんの家へと戻った。
今日は外食せず、私が作る予定だったので帰りにスーパーに寄って食材を買った。

「お疲れ様です。クライナーも随分あなたに懐きましたね」
「嬉しい限りです」
元々賢い子だから私にも粗相なんてしなかったけど、最近では私の姿を見る前から尻尾を振ってくれてるそうで、可愛さ倍増だ。
思い出して思わず笑みをこぼすと、不意に司さんから抱き締められる。
「つ、司さん?」
突然の抱擁に上擦った声をだすと、頭上からくすりと笑いが落ちる。
「可愛い声だ。まだ夕食の支度を始めるには早いでしょう」
「確かに…まだ早いですね」
「クライナーを甘やかした分、今度は俺の事も甘やかしてください」
恐る恐る顔をあげて、司さんの表情を確認すると、少し恥ずかしそうに笑っていて、思わず胸が締め付けられる。
(もしかして、クライナーにヤキモチとか?)
そういえば今日はやたらと咳払いをしていた。風邪でも引いたのかと心配するほどに。
でも良く考えるとあれは私がクライナーを撫で回してる時にばかり聞こえたような。
そう考えると目の前の恋人がどうしようもなく可愛く見えた。
「司さんはいい子、いい子」
私は両手を彼の頭に伸ばし、クライナーを撫で回した時のようにわしゃわしゃと撫でる。
柔らかな髪はクライナーのそれとは違うけれどこれはこれでひたすら撫でたくなる。
しばらくされるがままになっていた司さんは満足したのか、閉じていた目を開き、私の額に自分の額をこすりつけた。
「これは癖になる撫でられ方ですね。思わずクライナーに嫉妬してしまいました」
「クライナーも可愛いですけど、司さんも可愛いですよ」
「俺のことを可愛いなんていうのはあなたくらいですよ」
「いいんですよ。私だけが可愛いところを知ってるんで。誰にも見せたくないです」
こうやって甘えてくれる姿も、私のことを好きだといって笑ってくれるところも。
全部全部私だけのもの。
「今度は俺が玲さんを癒す番です」
「今のでも癒されましたよ?」
「いいえ。俺がまだまだあなたを甘やかし足りない」
そっと優しいキスが一つ、二つ。
くすぐったくて、笑みが零れるとほぼ同時に私はゆっくりと押し倒される。
「いっぱい甘やかしてください。私も司さんのこと、甘やかしますから」
両手を広げて、彼を乞う。
「あなたには敵いませんね」
司さんは優しく笑うと私の腕のなかに落ちてきた。

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