初めてのキスはエレベーターの中だった。
シシバの言葉が悲しくて零れた涙を止めるような優しいキスだった。
二回目のキスはバニラスカイを見た浜辺で。
これは今思い出しても顔が熱くなるくらい恥ずかしい…けど嬉しかった事をよく覚えている。
「イノリ、何してるの?」
シシバを待ちながら、指折りキスをした回数を数えていたなんて言えるわけがない。
慌てて両手を背中に隠すと、シシバは不思議そうに首をかしげる。
「なんでもないよ、シシバ」
「そう?」
「もう帰れそう」
「うん、大丈夫」
今日は仕事終わり、シシバの家に寄って一緒にご飯を食べる約束をしていた。
このままスーパーによって、食材を買い、シシバの家で料理を作る。
そうして夜を一緒に過ごすのはかけがえのない時間だ。
その時、きっとまたキスを交わすだろう。
「ねえ、シシバ」
「ん?」
「シシバは今まで何回したか覚えてる?」
「え!?」
おずおずと尋ねてみると、眼鏡越しに見える彼の瞳が大きく見開かれる。
「私とした、キスの回数」
「ああ、そっち」
うっすら赤くなった頬を見て、シシバの勘違いに気づく。
それを見て、私もつられるように赤くなった。
「最初は数えてたんだけど」
「数えてたんだ」
私と一緒だと思ったら嬉しくて、思わず頬が緩む。
「でも数えるのやめたんだ」
「どうして?」
「だってこれからイノリとは数えきれないくらいキスをすると思うから。何回したかなんて関係ないって気づいた」
「-っ!」
自分の好きという気持ちが、相手と同じものか不安になることもあったのに。
今はそんな事を考えないくらい、私たちは通じあっている。そういわれたような気持ちになった。
「シシバ、大好き」
ぎゅっと彼の腕にしがみつくと、シシバは「僕だってイノリが大好きなんだけど」と笑われてしまった。