お互い様(ケイヒヨ)

今日の授業が終わるとクラスメイトは教室を出ていく。
部活に行く人、帰宅する人、場所を変えて友達とおしゃべりする人。みんな様々だろう。
私はちらりとドアの方を見て、ため息をつく。昼休みに獲端くんと喧嘩をしてしまった。
今思い返すと本当に些細な事だった。もう知らない!とお互いに顔をそむけた時に昼休みが終わり、私たちは何も会話をせずに別れた。
(本当は今日、買い物に行く約束をしていたのになぁ)
あの調子だったらきっともう獲端くんは帰ってしまっているだろう。はぁーと深いため息をつきながら私は鞄を持って席を立った。
「ヒヨリ、帰るの?」
「うん、バイバイ」
「ばいばーい」
友達に手を振り、私は教室を出る。と、突然目の前に人が現れて、激突してしまった。
「いたっ…ごめんなさい!」
慌てて顔をあげると、目の前にはとてもとても見知った相手。
「お前、何回ぶつかるんだよ」
「獲端くんだって、そろそろ避けるか受け止めるかしてくれてもいいと思う。ていうか、なんで獲端!?」
「なんだよ、俺じゃ悪いかよ」
不機嫌そうな顔をしながら私を見下ろす彼はいつもと変わらぬ悪態をつく。
「だって私たち、お昼に喧嘩したよね」
「忘れた」
「忘れたって…!」
「うるさい、お前も忘れろ」
そう言って、獲端くんは私の手を掴んだ。まだ学校の中なのに突然の事に驚いてしまう。
「お前は驚いてばっかりだな」
「だ、だって!」
驚く事ばっかりするんだもん。私が掴まれた手をぎゅっと握り返すと、獲端くんの頬が少し赤くなった。
(あ、照れてるんだ)
さっきまでの暗い気持ちはどこへやら。喧嘩した事なんて獲端くんの言う通り忘れてしまえばいい。
「ふふ」
「なんだよ、今度は笑いだして」
「え? 獲端くんの事、大好きだなーって」
「…! お前はそういうこと、もっと」
「もっと?」
「なんでもねえ! 行くぞ、ヒヨリ!」
大股で歩き出した獲端くんに引っ張られるようにして歩き出す。こんなところで普段は呼ばない名前を呼ぶなんてずるい。獲端くんよりきっと顔が赤くなっているだろう。
「! 獲端くんのそういうところがずるいと思う!」
私が叫ぶように反論すると、獲端くんは「お互い様だ」と言い返した。

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