*ありがとうを君に(ニケラン)

愛おしいと思う時間はランが隣で眠っている時だ。
二人だけの部屋にいると世界には僕とランしかいないような気持ちになる。
たった二人で取り残されたみたい―
僕はそんなことを望んでいるのかな。自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。
ランには気付かれたくないと思っている。
いつか彼女が僕の腕の中からすり抜けて消えてしまうのではないか
幸せというのは泡のようにはじけて消えていってしまうんじゃないか
そんな不安がたまによぎるなんて、彼女にだけは気付かれたくない

 

 

 

「ユリアナに?」

「うん!」

ランがテーブルで淡いピンクの便せんに文字を綴っていた。
生活が落ち着いてからはユリアナと手紙のやりとりをしている。
ここでの生活は落ち着いてきたが、友達というものは出来ない。
落ち着いた村だからか、年の近い人があまりいないのだ。
だから迎え入れてもらえたというのもあるかもしれない。
自然が豊かで、穏やかな村。
新婚さんなのに、こんな村に移り住んでいいのかい?なんて近くのお婆さんに言われた時には少し恥ずかしかった。
僕よりも真っ赤になって照れていたのはランだった。
そういう純粋な彼女が凄く可愛く感じている。

「さっき木苺を積みに行ったら咲いてたから、少しだけ摘んできた」

「可愛い」

「ランみたいだね」

「・・・っ、ニケは突然そういう事言うよね」

ランを見ていると自然と出てしまうんだ。
何度そう言ってもランは恥ずかしそうに笑う。
その表情を見るのが、凄く好きなんだ。

「そうかな、君が可愛いなっていつも思ってることだから」

「・・・もういいわ」

ふい、と視線を便せんに戻すと彼女は手紙の続きを書き始めた。
僕は積んできたばかりの木苺を水洗いすると、ジャムにするために作業を始めた。
鍋に木苺を入れると木ベラで軽くつぶしながら熱する。
あまり細かくしてしまうと、食感を楽しめなくなるから。
ランは木苺がごろりとしているのが好きだと話していたからそうするようにしている。

「ニケ」

名前を呼ばれて振り返ると、ランがさっきの手紙を手に持っていた。

「それじゃあ私、手紙出してくるね」

「うん、気をつけて」

出ていく彼女を見送ると、作業を再開する。
焦らず、丁寧にすることが美味しいジャムをつくる秘訣だ。
最初の頃はどうすれば良いか二人で試行錯誤していたけれど、最近ではこの素材だったらこうかな、というレパートリーが増えた。
少しだけ木苺を乾燥させて、それをパンに練り込むのも美味しいだろう。
今日から乾燥させておけば数日後には出来るだろう。
ランの喜ぶ顔が目に浮かんで、自然と笑みがこぼれた。

「幸せすぎて・・・怖いな」

ぽつりと呟いたのは紛れもない本音。
この幸せがなくなってしまったら僕はもう生きていけないだろう
でも、もしかしたら手離すかもしれない、とどこかで思う自分がいた。
だからランと二人きりのこの世界で、僕はランに触れることを躊躇っている
抱きしめる事も、指を絡めることも、口づけも。
全て幸福を感じるのに、彼女を欲望に任せて抱くことは出来ない。
彼女は綺麗だ。
今まで出会ったどんな人よりも綺麗だから、僕がそうやって触れていいのか未だに分からない。
ランは何も言わない。
だからこのまま、こういう生活を繰り返していくだけでも僕にとっては身に余る幸福だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニケ、明日は何が食べたい?」

入浴を済ませると、二人で一つのベッドで身を寄せ合う。
少し冷えるからか、ランは僕に身体を寄せる。
同じ石鹸を使っているはずなのに、彼女の香りは甘い

「んー・・・ハンバークかな。前にランが作ってくれて美味しかったよ」

「じゃあそうしようっと」

ランが時計をちらっと見遣る。
今日はいつもより夜更かしをしているな、そろそろ寝ようかと告げようとした時だった。

「ニケ、あのね」

彼女が僕の手に自分のそれを重ねて指を絡めた。

「私、今がとっても幸せ。
ニケと一緒に毎日を過ごすのってキラキラしてるの」

「僕もそうだよ。ランがいるから、怖いくらい幸せ」

自然と唇を重ねる。
啄ばむような口付けを繰り返し、見つめ合っては微笑む。

「ニケ、お誕生日おめでとう」

「え?」

その言葉を一瞬理解出来なかったけど、そういえばそうだった。

「ああ、そっか・・・誕生日なんてあんまり意識してなかったから」

「これからは私が毎年貴方におめでとうって言うわ。
生まれてきてくれてありがとう、幸せよって。
だから、ニケ・・・」

彼女は頬を赤らめていた。
けれど、その瞳は何かを決意したのを物語っている。

「私を全部貴方にあげる」

それだけ言うと、彼女は僕にキスをした。
今まで抑えていたソレが、僕の中で弾けた。

 

 

彼女がつたないキスを繰り返すと、絡めていた手をそのままベッドへ押しつけた。
彼女の上に覆い被さると今度は僕から口づけて、彼女の口内に舌を差し込むと、舌を吸い上げる。
その都度彼女の口から嬌声が零れる。
その声や気持ちよさに頭がくらくらする。
きゅっと握られている手をそっと離すと、彼女の寝着のボタンを一つずつ外していくと、彼女の髪色に似た色の下着が露わになった。
真っ白の肌は快楽からか、少し赤くなっていた。
鎖骨に歯を立てて、舌を這わせる。
ぴくんっ、と身体が跳ねる。そこをきつく吸い上げれば紅い花が生まれた。
昼に作っていた木苺のジャムを唐突に思いだす。
まるで彼女は果物みたいに甘い

「ランの身体、甘い」

「っんっ、そんなことない・・・っ」

声を我慢しようとしながらも初めての事だからか、ランは僕の服をぎゅっと握っていた。

「ニケ・・・っ、ニケも脱いで?」

彼女の肢体に手を這わせながら口づけていると懇願するような瞳で僕を見ていた。
それだけで身体の奥底にどろりとした欲望が疼く。

「じゃあ、ランが脱がせて」

愛撫する手を止めると彼女に笑いかける。
戸惑ったような顔をして、僕を見るが黙って彼女を見つめた。
諦めたように身体を起こすと、僕の寝着に手をかけて少し震える手でボタンを一つずつ外していってくれる。

「・・・ニケも男の人なのね」

上を脱がされて、彼女はまじまじと僕の身体を見る。
恐る恐る僕の身体を手でなぞる。
身体を確かめるように動くその指に肌が粟立つ。

「ラン・・・あんまり煽るような事はやめて」

余裕なんてないんだから、と言うと噛みつくようにキスをして再び押し倒した。
肌と肌が触れ合うことによって互いの体温があがっていく。
下着を外すと、直接彼女の胸のふくらみに触れる。
パンの生地よりも柔らかい、なんて不謹慎なことが頭をよぎる。
比較するものがそんなものしかないというのが、なんだか自分らしい。
胸の頂に触れると、指ではじくように愛撫する。

「やっ・・・ん、ニケぇっ」

甘ったるいランの声がもっと聞きたくて、身体をずらすともう片方を口に含んだ。
舌先で転がすと、ランは面白いほど身体をしならせる。
やだ、はずかしいって言う言葉を聞き流すと、手を下腹部へと移動させた。
初めて触れる彼女の秘部は既にもう潤んでいて指を滑らせる。

「はぁっ・・・んっ、あ、やぁ」

恥ずかしいのか、動きを制しようとしてランの手が僕の腕に伸びる。
空いてる手でその手をそっと握ると、ベッドへと戻す

「もうっ・・・やぁ、ニケぇ」

「だーめ。ちゃんと慣らさないとランがつらいよ?」

初めてというのはまだ中が何も受け入れようとしないので、十分にほぐしてやらないといけないと聞いたことがあった。
あまりそういう事に詳しくないが、頭の中にある知識を総動員する。
指を2本にし、ランの中を揉むように動かしていると、おそらくイイ部分に触れたのだろう。
ランの口から悲鳴じみた声が上がった。

「ニケっ・・・おねがい、もう・・・っ!」

腕を強く掴まれ、情欲に濡れた瞳が僕を見つめている。

「ラン、力抜いてね」

彼女の中から指を引き抜くと、既にランの姿のおかげで昂っている自身を取り出して、潤んだそこに宛がう。

「手、背中にまわして」

両手を背中にまわさせると、彼女の太腿を抱きかかえるようにして自身を挿入していく。

「-っ!」

苦しそうな声が上がり、押し進めるの一旦止める。

「苦しい?」

「だいじょうぶ・・・っ、続けて?」

目尻から生理的な涙を零すランをみて、嬉しいのと苦しいのがごちゃまぜになる。
僕が泣かせているという事実が狂おしい。
ゆっくりと時間をかけて、全てを埋め込んだ。

「全部入ったよ、ラン」

「ほんとう?」

ランの顔を見ると涙でくしゃくしゃになっていた。
痛かっただろうに。それでもやめてとも痛いとも言わなかった。
きっとそう言葉にすれば、僕がやめることを分かっていたから。
そうまでして、僕を受け入れてくれたことが

「ニケ・・・?泣いてるの?」

ぽたりぽたり、と彼女の頬に僕の涙が零れ落ちる。

「ごめん、ラン
こんなに幸せなことってあるんだね」

人を愛すること、愛されること。
僕には縁のないことだと思っていたから。
家族の愛情というものすら手に入らなかった僕には何もないと思っていたのに。
ランは僕の心の隙間をそうやって埋めてくれるんだね

「ありがとう、ニケ」

そっと彼女の手が僕の頬に触れて涙をぬぐう

「私と身体を重ねて、泣いてくれる人なんて世界中どこを探したってニケしかいないよ。
ニケしか、私をこうやって愛してくれない」

「ラン・・・」

そっと口づけるを送る。

「もう動いてもいい?」

「・・・うん」

二人の間に隙間なんて存在しないかのように身体を密着させると、律動を開始する。
ランの身体を気遣いながら動くが、きゅっと自身を締め付けられて快感が体中を駆け抜ける。

「っあぁっ・・・っ、ニケっ、ニケぇっ・・・!」

絶頂が近いのか、ランが懸命に名前を呼んでくれる。
それに応えるように中を動く。
自身が弾けるのと、ほぼ同時にランの身体がしなった。

 

 

 

 

 

 

 

ベッドの中でランとまどろみながら彼女の手をきゅっと握る。

「ラン・・・ありがとう」

改めてその言葉を口にした。
こんなに幸せをくれてありがとう。
こんな僕を愛してくれてありがとう。
ランは優しく微笑むと、身体を寄せてきた。

「ニケ、大好きよ。
これからもずっと一緒にいてね」

「うん、ずっと一緒にいよう
好きだよ、ラン」

どうか、今までにない幸福な誕生日に僕の全てをランで埋め尽くして。
そう願うように、もう一度口づけた。

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