唐揚げ(弓弦x市香)

仕事帰り。
いつもの飲み屋。
いつもの席。
いつもと同じ一杯目のビールを飲みほして。
隣にいるのは少し酒の回った同期の星野。

「やっぱり冴木くんと飲むビールはおいしいね」
「嬉しい事言ってくれるじゃん。まあ、そういう俺も星野と飲むビールが一番美味いと思ってるけど」
「私は一番とは言ってないよ」
「えー、一番だろ?」
「うーん、どうだろ」

星野は楽しげに笑うと残っていたビールを飲み干す。
俺もそれにあわせて残りを飲み干して、二杯目を注文する。
それから他愛のない雑談を交わしながら、酒と食事が進む。
三杯目から数える事をやめたビールジョッキをテーブルにどん、と置くと星野はおもむろに口を開いた。

「きょうね、香月と同い年ぐらいの男の子から電話が入ったの」
「へぇ」

香月というのは星野の高校生の弟で絶賛反抗期中だそうだ。
たびたびぶつかる事があるようで、誰とでも打ち解ける星野もさすがに家族となると手を焼いているようだ。

「悪戯電話だったから良かったんだけど、ちょっと話し込んじゃって」
「悪戯電話と話し込めるってすげーな、星野」
「あはは。あーあー、そんな風に香月と話せるようになるかなぁ」

今日、どこか元気がなかったのはそれが原因だったようだ。
テーブルに突っ伏した星野の頭をぽんぽん、と撫でてみる。
ぴくっと肩が震えたので、振り払われるかと思いきや星野は深いため息をついた。

「なんだよ、そのリアクション」
「やっぱり冴木くんと飲むビールが一番おいしいかも」

起き上がった星野の頬は、酔いのせいなのか、俺のせいなのかは分からなかったが、確かに色づいていた。
俺は何も答えず、皿にぽつんと余って唐揚げを口に放り込んで、ビールを流し込んだ。

 

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