初恋の味(リョウヒヨ)

夢を見た。
そこはアルカディアではなくて、現実世界。
下校しようとした時、ぶつかった双巳さんと知り合って、恋に落ちる。
年が6歳も違うから、私なんて子供にしか見えなかっただろう彼に私から精いっぱいアタックした。
そうしてようやく想いが通じて、私と双巳さんは恋人同士になる。
そんなありもしない夢。

 

「さっきのドラマの演技、なかなかだったんじゃないか?」
「……そうですか」

ドラマの配信が終わって、私は双巳さんがいる廃墟へとやってきた。
さっきのドラマは凝部くんと陀宰くんが演じる男の子との三角関係を描いたドラマの第3話だった。
凝部くんに抱きしめられるシーンがあったのに、双巳さんは何にも気にしていないそぶりで私を褒めた。

「双巳さんって、意地悪ですよね」

私の精一杯の抵抗なんて彼には届かず、私は頬を膨らませるしか抵抗する術が浮かばなかった。

「双巳さんの分もレモネード入れますからね!」

甘い飲み物が得意ではないといった双巳さん。
あれ以来、私はレモネードを飲んで、彼はコーヒーを飲む。
だけど今日は彼用にコーヒーをいれてなんてあげない。
はちみつとレモン汁をいれたカップにお湯を注いで、かき混ぜる。
タッパーに入れて持ってきたスライスしたレモンを浮かべて完成。

「ヒヨリ、機嫌悪いんじゃないか」
「そう思うんならそうだと思います」

カップを渡すと、双巳さんは苦笑いを浮かべながらレモネードに口をつける。
甘すぎたのか、一瞬顔をしかめた彼を見て、少し悪戯がすぎたかなって不安になった。

「やっぱりコーヒー淹れますか?」
「いや、今日はこれでいい。そもそも俺へのあてつけなんじゃないのか、これもあれも」
「あてつけっていうほどのものでもありません。ん?これもあれもって…?」
「さっき、凝部に触れられていたのはここだったよな」

左手で私の肩を抱き寄せて、首筋をそっと撫でられる。

「凝部くんはそんなところ触ってなんか」
「ああ、触ったんじゃないか。見てたのか」
「見てもいないです!」
「ヒヨリは隙が多いから」

首筋を撫でていた手がゆっくりと下へと移動していく。肩から腕、そして手が重なった。

「双巳さ…」

触れられるのは嬉しい。
だって双巳さんは大好きな人だから。彼がどんな人間であったとしても私は彼の事が好きだ。振り向いてくれるまで…いや、振り向いてくれた後だって私は彼に好きだといっぱい伝えたい。
だけど、彼の指がゆっくりと私に触れると、まるで自分が知らなかった自分を暴かれるみたいで鼓動が高鳴ってしまう。

「ヒヨリ」

私の名前を呼ぶ双巳さんの声がいつもより優しい気がした。
唇が触れ合うと、啄むようにキスを繰り返す。
もう何度キスしたか、両手で数えられなくなってから数える事をやめた。
しばらくして、唇が離れると双巳さんは甘えるみたいに私に額をこすりつけた。

「もしかして、本当はさっきのドラマ気にしてました…?」
「さあ、どうだろうな」

双巳さんの表情は見えない。私は彼の頭に手を伸ばし、そっと触れた。

「じゃあ、気にしてたって解釈しちゃいます」
「はは、ヒヨリらしいな」

おかしそうに笑う双巳さんにほっとして、今度は私から双巳さんにキスをする。
子供のような下手くそなキスしか仕掛けれないのが悔しいけど。
まるで子猫にじゃれつかれたみたいに双巳さんは頬を緩める。

夢で見たような出会いだったら、私たちはどうなっていたんだろう。
でも、私はこの世界で出会えた事を後悔はしない。
今目の前にいる、双巳さんを愛しているから。

「やっぱり甘いな」
「レモネードですか?」
「いや……そうかもな」

いつもより果汁多めにしたレモネードを一口飲んだ。

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