甘い苦い甘い(メイヒヨ)

学校の帰り道。
瀬名と二人で帰る事が当たり前になった日常のとある日。

「ね、陀宰くん。コンビニ寄ってもいい?」
「ああ、珍しいな」

自動ドアが開き、そのまま店内に入る。
ひんやりとした空気が漂うコンビニの中、瀬名は目当てのものを目指して迷う事なく歩いた。

「あったー!よかった!」
「それは…?」
「新作の抹茶ラテ。今日、お昼に友達が飲んでるの見て美味しそうだなぁって」
「へぇ」

嬉しそうに瀬名は抹茶ラテを手に取る。

「陀宰くんも飲む?」
「いや、俺はいいや」

ラテは甘い。あんまり甘い飲み物は得意ではないので、俺は自分用に缶コーヒーを手に取った。

「ブラックなんて大人だね」
「そうか?」
「私はブラック苦手だもん」
「瀬名っぽいな」
「それは子供っぽいって事?」
「いや、可愛いって事」

会計を済ませ、コンビニを出る。
瀬名は早速ストローを刺して、ラテを飲み始める。

「ん!美味しい!」
「はは、良かったな」
「陀宰くんも一口飲んでみる?」

目を輝かせて、瀬名が言うから俺は試しに一口もらうことにする。

(…でも、これって)

間接キスだな、と思ったが言葉にしたらきっと瀬名まで赤くなるからぐっとこらえる。何度かキスをしたって、やっぱりこういうのは照れてしまうのは性分だ。
ストローをくわえ、一口飲む。甘ったるい味が口の中に広がったと思いきや、その中に微かに苦みを感じた。想像していたよりも飲みやすい味で、少し驚いてしまう。

「美味いな」
「でしょ?甘すぎず苦すぎずって微妙なラインが美味しいよね」

ご機嫌な様子で瀬名は再び抹茶ラテを飲む。
俺は缶コーヒーを一口。さっきまで口の中にあった甘さはあっという間に消えてしまった。

「それ…美味しい?」
「ああ、そこそこ?」
「そこそこなんだ」

俺の回答を聞いて、瀬名が楽しそうに笑う。

「そうだ、今度のお休み買い物に付き合ってくれませんか」
「ああ、いいけど。珍しいな、そういう誘い」
「…陀宰くんがもっと積極的に誘ってくれたら嬉しいんだけどね」
「…!」

手から缶コーヒーが滑り落ちるかと思った。
帰ってきてから今まで、しょっちゅう情報局に呼び出されて、瀬名と過ごす時間もあまりとれずにいた。それに対して不満を一切漏らす事のなかった瀬名が、ようやくこぼした愚痴…みたいなものに俺は驚きより、嬉しさが勝っていた。

「もう一回、やり直していいか?」
「うん、どうぞ」

残っていたコーヒーを一気に飲み干してから、俺は瀬名を見下ろした。

「あー…今度の休み、出かけないか」
「…うん、行きたいな」

はにかんだ笑顔で、瀬名は嬉しそうに頷いた。
瀬名の顔を見ていたら口の中にあった苦みは、どこかへと消えてしまった。

空いた手を瀬名に差し出すと、瀬名は俺の手をきゅっと握った。

「…やっぱり甘いな」
「え?抹茶ラテ?」
「あー…そうだな」

どんな甘い飲み物よりも、瀬名の笑顔がとんでもなく甘くて俺は困ってしまうとは、さすがに言うのが恥ずかしいから曖昧に笑うのだった。

 

良かったらポチっとお願いします!
  •  (4)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA