君と食べるご飯 おやつの時間(マモル+ヒヨリ+メイ)

昼下がり。休憩をかねて庭のベンチに座っていると「お疲れ様です」と言って、茅ヶ裂さんが現れた。

「この場所、気持ち良いですよね。僕もよく来ます」

「仲間ですね。今日も図書館でバックナンバーを調べてたんですか?」

「はい。ずっと見てると目が疲れてきちゃって」

「俺もずっと図書館の本を呼んでた時は結構目が疲れたっけ…」

「ああ、やっぱり」

情報収集も進まず、進展はほとんどない。もっと焦りを見せるべきなのだろうか。いつも集めた情報は夕方、情報収集班のミーティングで話す事になっているが、今日は大した報告は出来なそうだ。

「あ、二人とも! ここにいたんですね」

「瀬名?」

「瀬名さん、お疲れ様です」

ひょこっと姿を見せたのは瀬名だった。制服のスカートがひらりと揺らしながら瀬名は小走りで俺たちのもとへやってくる。手には大き目のお皿を持っていた。

「ちょっと気分転換にクッキー焼いたんですけど、良かったら食べませんか?」

「クッキー」

そういえばお菓子作りも好きだと言っていたのを思い出す。クラスの女子たちがお菓子を持ち寄って食べている時、瀬名が手作りクッキーを持参したのを見かけた事があった。心底羨ましいと思ったそれを、今食べる機会がめぐってこようとは……

「ありがとうございます、いただきます。ね、陀宰くん」

「食べる」

「良かった!」

瀬名はお皿を俺たちの前に差し出した。クッキーは犬や猫、ウサギ、ひよこ…様々な動物の形をしていた。俺は猫の形をしているクッキーに手を伸ばし、割るのが可哀想に思えたので一口で食べる。さくさくとした食感と、程よい甘さをかみしめる。

「ちょうどいい甘さだな、これなら食べやすい」

「…そうですね。さくさくしてて美味しいです」

茅ヶ裂さんはひよこの形をしたクッキーを頬張りながら頷く。

「良かった! 久しぶりに焼いたのと、獲端くんの腕前を散々見せつけられてたから自信がどんどんなくなってたから」

瀬名はえへへと安心したように頬を緩めた。確かに獲端は料理もお菓子作りも貪欲に取り組んでいる。あの腕前を見せつけられ続けたら自信喪失しそうになるのも無理はない。

「でも、獲端くんから刺激を受けたり、色々教えてもらえたりするから勉強になってるんだけどね」

そういえばクラムチャウダーの隠し味も獲端に教わったと言っていたから、他にも色々と教えてもらっているのだろう。

「瀬名は強いな。あの暴言の数々から教わるなんて」

「獲端くん、言葉は厳しい時がありますけど面倒見良いですよね」

「こんなに話題にされたら獲端くん、今頃くしゃみしてるかも」

そう言って瀬名はくすりと笑った。ふと茅ヶ裂さんが何かに気づいたように口を開く。

「あ、瀬名さんも座って一緒に食べませんか?」

確かに瀬名は俺たちの前に立って、食べやすいように皿を支えてくれている。俺と茅ヶ裂さんはそれぞれ端に寄って、瀬名の座るスペースを作った。

「それじゃあ、お邪魔します」

(…これは)

思ったより瀬名が近い距離にいて、少し緊張してしまう。顔が赤くなっていないか少し心配しながら首元を撫でた。

「うん、美味しい! さっき焼きたてを味見したんだけど、熱くてあんまりわかんなかったんだよね、実は」

「それはそれで美味しそうですけどね」

「そうだな、ちょっと気になる」

瀬名が作るものならなんだって気になるんだけど、それは言葉にしない。

「じゃあ今度焼いた時はアツアツのまま二人に持ってきちゃいますね」

いたずらっこのような笑みを浮かべて、瀬名は約束をしてくれた。しゃべりながら食べているうちに皿の上のクッキーはずいぶんと減っていた。あと数匹しかいない猫に手を伸ばす。

「それにしてもやっぱり陀宰くんは猫が好きなんだね」

「え?」

「僕も思いました。さっきから猫ばっかり食べてますよね」

瀬名だけじゃなく茅ヶ裂さんにまで見られていて、照れくささから顔が熱くなる。

「別に猫ばっかりを選んでたわけじゃない。自然とだな」

「自然と猫ちゃんを選んじゃうんだもんね、陀宰くんは」

「ちが…! わないけど」

「ふふ、じゃあ残りの猫ちゃんは陀宰くんにあげるね」

瀬名は猫の形のクッキーを俺の近くに寄せる。

「そういえば明瀬さんの分、とっておいてあげなくて良かったんでしょうか」

この場にいない班の仲間の名前を出す。

「茅ヶ裂さん、こういうのは戦争なんで、この場にいない明瀬が悪いんです」

「それはそれは……」

俺の言葉に茅ヶ裂さんが納得したように頷きかけたところで、突然でかい声が庭に響く。

「ちょっと待った!! お前たちだけでなんか美味そうなもの食ってる?」

「ちっ、勘の良い奴」

その声の主は今話題に登った明瀬。タイミングが良いにも程がある。けれど、皿の上に残っているのはあと2枚。俺は自分の猫を急いで手に取る。

「一枚どうぞ、明瀬さん」

「サンキュー、茅ヶ裂さん! 陀宰、お前散々食べたんだろ?お前のそれも俺によこせ」

茅ヶ裂さんが譲った一枚をぺろりと平らげると明瀬は俺の手にあるクッキーを狙う。

「絶対嫌だ。これは俺のだ」

「いいだろ、減るもんじゃないし」

「減るだろ! クッキーは減るだろ!」

「あはは、二人とも仲良いなぁ」

「そうですね」

俺と明瀬の攻防戦を見守りながら、瀬名と茅ヶ裂さんはほほ笑む。

最後の一枚は良く味わって食べようと決めていたが、明瀬に取られるくらいならと急いで口に放り込む。

「あー! マジで食った!」

「俺のだ、悪いか!」

子供のような言い合いをしていると、さすがにもう見かねたのか瀬名が両手を腰について立ち上がる。

「もう! 二人ともまた焼くから喧嘩しないの!」

瀬名の一喝が響き、俺と明瀬は言い合いをやめる。

「さすが瀬名さんはお姉さんですね」

ぱちぱちぱちと茅ヶ裂さんの拍手を聞いて、俺と明瀬は顔を見合わせて笑ってしまう。

こんなくだらないけど、愛おしい日常みたいなものがこの場所で感じられるなんて。俺は心の奥深くに沈んでいた感情を少しずつ思い出していた。

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