欲しかったモノ(タクヒヨ※BADEND)

二人きりの世界。
望めばなんだって手に入るこの場所はきっと楽園だろう

「ヒヨリ」

彼女の名前を呼ぶと虚ろな瞳でボクをとらえ、そうしてゆるく微笑んだ。

「タクミくん、どうしたの?」
「ヒヨリはどこか行きたいところ、ある?」
「行きたいところ?」

ヒヨリは人差し指を顎にあてて、考え込む。
そのしぐさが少し幼くて可愛かった。

「うーん…タクミくんがいるならどこでもいいよ」
「ボクと一緒だ」
「ふふ、嬉しいなぁ」

甘えるようにヒヨリがボクにもたれかかってくる。
そんな彼女の肩を抱いて、ボクは目を閉じる。

 

全部全部ほしかった。
瀬名お姉ちゃんの瞳に映るものがボクだけになればいいと思ってた。
ボクの全部をあげるから、キミの全部が欲しいと初めて伝えた時は戸惑った顔をされたけど。

「ねえ、ヒヨリ」
「なぁに?」
「ヒヨリの全部、ボクにちょうだい」

ヒヨリは驚いたように目を丸くし、それから緩く微笑んだ。

「私の全部、もうタクミくんのものだよ」
「あ、そっか」
「ふふ、変なタクミくん」

全部欲しかった。
欲しかった彼女は、今はもうボクの腕のなか。
その瞳に映るのも、記憶に存在するのも、ボク一人。

だけど、どうしてだろう。
目を細めて見つめた、眩しい笑顔だけはこの腕のなかには見当たらなかった。

 

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