これからもずっと(暁七)

飲食店なのだから元旦も仕事になるんじゃないかと危惧していたけれど、
店自体が休みになったおかげで今こうして七海の隣にいられる。

「七海、手」
「うん」

人混みのなか、七海と離れないようにぎゅっと手を握る。
七海は人混みよりもその先に見える屋台が気になるようで視線がうろうろしている。

「参拝が済んだら寄るからちゃんと前、見てろ」
「うん。暁人、いか焼き食べたい」
「おまえ、せっかくの着物よごさないか?」
「大丈夫、綺麗に食べるから。
それに暁人がせっかく作ってくれた着物だもの。絶対汚さない」
「・・・そうか」

せっかくの正月だ。
初めて二人で過ごす正月だから特別なものにしたい、っていうと少し大げさだけど。
七海に似合う着物の生地を見つけてしまったのだ。
着せてやりたいと思うのは当然のことだろう。
参拝客の列に並んでから随分経っているが、ようやく拝殿前にたどり着いた。
二人で賽銭を入れて、願い事をする。
ようやく参拝も終わり、七海が狙っていた屋台へと移動する。

「うまいか?」
「うん!」
「そうか。あんまり食いすぎるなよ。帰ったら飯あるんだから」
「大丈夫。暁人のごはんはいくらでも入るから」

幸せそうにいか焼きを食べる七海の口元についたたれを指先で拭ってやるとぺろりと舐めた。
いか焼きのたれの味を記憶し、今度作ってやろうと内心意気込む。

「ねえ、暁人」
「ん?」
「暁人、真剣にお祈りしてたけど何を祈ってたの?」
「家内安全、かな」
「ふふ、暁人らしい」
「そういうお前は?」
「私は、お願いっていうより・・・暁人と一緒にいさせてくれてありがとうってお礼を言ってた」
「・・・ばーか」

ぽんぽんと七海の頭をなでると、俺は笑った。

「ありがとうって言うのは俺の方だよ」
「・・・暁人」
「ありがとな、一緒にいてくれて」
「・・・私がお礼を言ったのは暁人にじゃなくて神様だけど」

恥ずかしかったのか、七海は残りのいかを口に入れて俺から視線をそらした。
誰かとこんな風に穏やかな気持ちで正月を迎えられるなんて思っていなかった。

「俺も神様に言ったんだよ」

来年も再来年も、こうやって七海と過ごせるように。
そんな事を願ったのは、内緒だ。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (9)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA