家族になりたいわけじゃない(ジェドエル+ウサギ)

とろくさい兄ちゃんだと思っていたら、本当は姉ちゃんだった。
女の人の着替えを覗くのは良くないと、あの後ウサギに叱られてしまったけど、ジェドが女の人だと知って良かった…ような気がする。

「ねぇ、ジェドはどうしてあんなところに住んでるの?」
「え?」

カレイドヴィアの聞き込みに回っているジェドが途中経過の報告がてら教会にやってきた。
ちょうどロレンスは外出していたけど、「すぐ帰ってくるだろうし、戻ってくるまで待ってれば」と誘ってみると「そうしようかな」と珍しく頷いた。
便利屋という仕事は忙しいらしい。街のいろんな人に声をかけられて、買い出しをしたり、壊れているものを直したり、時には用心棒の真似事もするらしい。

「前は狼の屋敷で暮らしてたんでしょ?レビが言ってた」
「そんな話をするくらい仲良くなったんだね、レビと」
「そんなって…たいした話じゃないだろ」

確かにレビには稽古をつけてもらって、少しずつ打ち解けてきた気がする。
事あるごとに「ジェドは凄いんだぞ」と自分の事のようにジェドの話をするレビを見て、時々うんざりするが、少しずつジェドに興味がわいてきた。

なんであんな淋しげな場所で暮らしているのか、とか。
なんで女の人だということを周囲に隠しているのか、とか。

「一人であんなところにいるなんて変わってると思うけど」
「ぷう!」
「ほら、ウサギもそうだって言っている」
「住めば都って言うじゃない」
「都なの?」
「いや、そんなことはないけど…」

ジェドは困ったように頬をかく。
腕の中でお利口にしていたウサギが「ぷう~」と淋しげに鳴いた。
多分、ジェドの様子を見てウサギも心配になったんだろう。
だから…

「行くところがないなら、ここにくればいいのに」

いつも思っても口にしない言葉がぽろりと零れた。
すると、ジェドは驚いたように目を丸くして、ボクを見つめた。

「! こ、ここは行き場のない人が来る場所だし?
キノコを食べてくれるんだったら別にいいかなって思っただけだよ!!」
「はは、そんなに慌てないでもいいのに」

ジェドは手を伸ばし、ボクの頭にそっと触れた。
ゆっくりと頭を撫でられる。ふと、見上げたジェドの顔がいつもより大人びて見えた。それとレビが言ってた「ジェドは意外と睫毛が長いんだよなー」なんてどうでもいいことも思い出した。

「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。
それにあの場所は淋しい場所なんかじゃないから大丈夫だよ」
「ぷう?」
「うん、ウサギもありがとう」
「ぷうぷう~!」

ボクの頭からジェドの手が離れ、今度はウサギが撫でられる。
気持ちよさそうにぷくぷくと呟くウサギに、気持ちが緩んだ。

「ただいまー」

教会の扉の開く音がして、続いてロレンスの声がした。

「あ、帰ってきたみたいだね。エルリック、お茶ご馳走様」

「おかえり、ロレンス」と言いながら、ジェドはロレンスを出迎えた。

頭を撫でられるなんて、いつ以来だろう。
たまにレビが撫でてくるけど、ガシガシと力任せにされるので嬉しい気持ちより早く解放してくれと思ってしまうのに。
ジェドに撫でられた時は驚く程心地よかった。

「…別にそんなんじゃないよ」
「ぷう?」

ぎゅっとウサギを抱きしめると、ウサギはボクの頬にふわふわな毛並みを押し付ける。

 

ボクとウサギとロレンスと…そこにジェドがいたら楽しいなと思ったわけじゃない。

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