それはとても他愛のないやりとりだった。
「ねえ、凝部くん。もうすぐ誕生日だけどほしいものある?」
下校途中、吐く息も白い2月上旬。
ヒヨリが小首をかしげながら訪ねてくる。どうしてうちの彼女はいちいち可愛いのだろうと時々頭を抱えたくなる。
「そうだな~、ヒヨリちゃんかな☆」
「えっ!?」
「だってこういう時のお約束でしょ?プレゼントは私!みたいな」
「私は真面目に言ってるのに!」
「僕だって真面目に言ってるよ~」
彼女の表情はころころ変わる。それが可愛くて、ついついからかってしまうんだけど。
まさかこの時の会話が後の色々につながるなんて思ってもみなかった。
・・・・
「えーと、ヒヨリさん?」
俺は今、彼女に押し倒されています。
俺の誕生日である2月10日は日曜日と重なり、お祝いをしようとヒヨリが家に遊びにきた。休日なんて関係なく仕事のある両親は今日も不在。
いとしい彼女と二人きりの誕生日なんて、少し緊張するなと思ってはいたけれど。
まさか自分の大きめなベッドの上で、彼女に押し倒されるなんて想像もしていなかった。
「凝部くん、お誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう。それでヒヨリさん。これは一体どういう事?
あ、もしかしてプレゼントは私☆みたいな?」
なんて冗談だよねと言葉を続けようとすると、俺を見下ろす彼女の頬は羞恥で赤らんだ。そんな顔をされるなんて思ってなかったので、思わず俺の喉が鳴る。
「そのつもりだけど」
短く返された言葉がかえって本気っぽい。
ヒヨリは俺の服の隙間から手を入れ、腰あたりをゆっくり撫でまわす。
「ちょっ」
くすぐったさと彼女の手の心地よさで思わず声が出る。
そんなじれったい動きを繰り返しながら、ゆっくりと俺の服を脱がせると、脱がした本人が顔を赤くした。
「ねえ、ヒヨリちゃん。なんで赤くなってるの」
「だって、初めて見たから…」
「初めて見せますもん。キミが脱がせたくせに」
「そうだけど!!」
拒むべきか、受け入れるべきか未だに答えは出なくて。
俺は戯れに触れらてくるヒヨリの手の心地よさにドキドキしていた。
今までだって、何度かそういうタイミングはあった。
あまりの無防備さに我慢できなくて、キスをしながら押し倒した事だって一度や二度じゃない。
それでも我慢してきたのは、なぜか。
俺も年頃の男の子だし、我慢は体に良くない。
大事にしたいから手を出せないとかそういう事じゃなくて。
多分、俺は怖いんだ。
これ以上、ヒヨリがいなくては生きていけないなんて思う事が。
彼女を好きになって、世界は変わった。
今まで周囲をかき乱す存在は俺だったのに、今ではすっかり俺自身がかき乱され、ペースを狂わされる。
「じゃあ、俺も触っていい?」
「どうぞ?」
上半身裸の俺を見るのさえ恥ずかしがってるくせに。
この子も結構強情な子だったと思い出す。
体を起こし、向かい合う格好で彼女の頭を引き寄せる。
ついばむような口づけを繰り返し、それから舌を差し込んだ。
いつもなら逃げ惑うのに、今日は挑戦的に舌が触れ合う。
角度を変えて、何度も何度もキスを交わしながら、俺はそっと彼女の服に手を差し込んだ。さっきヒヨリが俺にしたみたいにゆっくりと腰を撫でまわし、それから背中を昇っていく。自分には無縁の存在が手にあたり、留め具を探して、まさぐる。
ようやく見つけたホックを一度、二度、指ではじいて、ようやく外すことが出来た。
「…慣れています?」
無事にホックを外せたことに安堵しているなんて気づいていないヒヨリはキスの合間にじぃっと濡れた瞳で俺を見上げる。ああ、可愛い。そんな風に見つめるのは反則でしょう。
「まさか、キミが初めてなのに」
そこは素直に口にしてみても、紫がかった瞳が信じていませんと言っている。
くすりと笑みをこぼし、俺はそっと彼女の服を脱がせる。外したブラをはぎとろうとすると、恥ずかしいのか両手でぐっと胸元を隠されてしまう。
そういう態度が男を煽るなんて、きっとこの子は知らないんだろう。
いや、知っていてやっていたらタチが悪い。
おなかあたりにあるリボンをほどき、下も脱がせると白い肌が俺の前に現れた。
(さっきまでどうしようか決めかねていたくせに)
俺って意外と流されやすかったんだなぁと内心苦笑いを浮かべる。
彼女のこんな姿を見て、引けるわけがなかった。
「凝部くんも脱いでください」
「え~、ヒヨリちゃんのエッチ☆」
「私の事は脱がせたのに!」
彼女のご要望にお応えして、ズボンを脱ぎすて、下着だけの状態になる。
自身はすでに反応していて、ヒヨリちゃんの目がそこにくぎ付けになった。
「凝部くん」
「そんなにじっと見つめられると照れるなぁ」
彼女に覆いかぶさろうと手を伸ばすと、また世界が反転する。
なんで今日の俺は何度も天井を見上げてるんだ。
「ヒヨリちゃん?」
「凝部くん、大丈夫。予習、してきました」
そう言って、ヒヨリちゃんは俺の足の間に体を割り込ませ、俺の下着に手をかけた。この場合、予習とは一体何を指すのか俺には全く見当がつかない。ただ、やばいという事だけは分かった。
「ちょ!ちょっと!ストップ!ヒヨリちゃん、ストップ!」
下着を下ろされ、すでに勃ちあがっていた自身がヒヨリの目の前に飛び出す。
目を丸くした彼女は意を決して、それをくわえようと口を開いた。
「ヒヨリちゃん、ストップ!」
俺はなんとか起き上がって、彼女を引き離す。
「どうして?」
「どうしたの、そんな大サービス!」
男にとっては喜ぶべきことだろう。いや、正直とても嬉しかったけど!!
「だって、凝部くんの誕生日だから…凝部くんに喜んでほしくて」
喜ばせたい一心で初めて彼氏を押し倒して、くわえようとしてくれる彼女の行動力はとんでもない。
そんな愛おしい彼女を俺はぎゅっと抱きしめた。
「ヒヨリちゃん。俺を喜ばせたくて、そういうことしてくれるのは嬉しいよ。
嬉しいけど、それは今度に取っておいてください」
「…その方が良い?」
「うん。とても」
「分かった。…はー、凄く緊張した」
「そうだろうね。俺もびっくりした」
二人で顔を寄せ合って、ひとしきり笑いあった後。
もう一度キスを送った。
「してもいい?」
「うん……」
今度こそヒヨリをベッドに押し倒し、俺は彼女の胸に手を伸ばす。
初めて触れたそれは柔らかく、手の平にあまる大きさだった。
「んっ…」
優しく先端をこね回すと、小さな声が漏れた。
「可愛い、ヒヨリちゃん」
「恥ずかしい…! んっ、あァっ…」
口に含むと声はより一層甲高いものになる。
可愛い俺のヒヨリ。全部全部俺のものにしたい。
胸をいじりながら、片手を下腹部へもっていくと、ぬるりと蜜が溢れていた。
「ぎょうぶくん!もう…!!」
「ダメだよ、ちゃんと慣らさないと」
指を一本、いれるとヒヨリの体はびくりと震えた。
「痛い?」
ふるふると首を振り、彼女は俺の腕を強く握る。
膣内を確かめるようにゆっくりと指を動かし、浅い出し入れを繰り返すと次第に彼女の口からこぼれる嬌声が大きくなる。
「はっ…んっ、あァ…っ、あ!んっ…!」
彼女の声を聞いているだけで自身はどんどん熱く、硬くなっていく。
ああ、やばい。限界かも。俺は指を抜くと、ヒヨリの足の間に体を割り込ませた。
「いい?」
俺の言葉に、ヒヨリがこくりと頷いた。
彼女の太ももを持ち上げ、自身をあてがおうと引き寄せる。
その時、ゴムの存在を思い出した。
「あ、ごめん。ヒヨリちゃん、ゴム…」
そう言おうとした瞬間、俺の自身は彼女の太ももに触れてしまった。
初めての柔らかい肌に、興奮してしまったそれは勢い良く精を吐き出した。
「ひゃっ!」
ヒヨリも突然の事に驚いたのか、びくりと体がはねる。
「あー……」
言い訳をさせてもらうと、とても限界でした。
だって、彼女に押し倒されて、服を脱がされたり、初めてなのにくわえようとしてくれちゃったりして…もうすっかり元気だったそれは彼女の太ももに触れただけで達してしまう程だった。
「ごめん、ヒヨリちゃん」
「え?えーと、これは?」
「うっかりイってしまいました」
「あー、なるほど?」
予習をしてきた!と言っていたが、それはどの程度だったんだろうか。
自らの太ももに広がるそれを見て、ヒヨリちゃんは顔を赤くした。
「…つまり凝部くんも初めてだったって事?」
「俺、さっき言ったよね。初めてだって」
「だって慣れてるように思ったんだもん」
ヒヨリちゃんは安心したように頬を緩め、それから俺に体を寄せた。
「幻滅した?」
「え?なんで?」
「だって挿れる前にイくなんて情けないでしょ」
「全然そんな事ないよ。いっつも私が凝部くんに振り回されてると思ってて、凝部くんは余裕しゃくしゃくなのかもって思ってたから。
凝部くんもいっぱいいっぱいになってたんだなって分かって嬉しかった」
えへへ、と笑う。情けない姿を見せたのに、それでもこんな風に笑ってくれるなんて、あーもうこの先敵わないんじゃないかと思ってしまう。
俺も、キミが好きで好きで、結構いっぱいいっぱいだったりするんだよ。
周囲をかき回す役回りは得意なんだ。だけど、キミにはもう装えない。
「ヒヨリちゃん、好きって言ってよ」
「凝部くん、好きだよ。大好き」
今度はヒヨリからそっとキスが贈られた。
「ねえ、ヒヨリちゃん」
「なに?」
「リベンジ、してもいい?」
「え?」
思春期真っ盛りの元気な男の子ですし?
元気を取り戻した自身に気づいたヒヨリは、顔を赤くして俺を上目遣いに見つめる。
「お手柔らかにお願いします」
「それはどうかな?」
嘘だよ。
とびきり優しくしてみせる。
大好きなキミが、俺のためにしてくれたこと。俺のことをどう思っていたのかとか。
そういうすべてが嬉しいから、俺のすべてはキミのものだよ
「キミが好きだよ、ヒヨリちゃん」
まずはもう一度、とろけるようなキスをーー