少しだけ大人のキスを、(シエハイ)

他人は他人。自分は自分、とは良く言うが、
他人がどうしているのか気になる時があるのは仕方がない事だと思う。
私は今まで縁のなかった恋愛特集の雑誌を隅から隅まで熟読する。

「最近、玻ヰ璃は難しい顔をして雑誌を読んでるなぁ」

リビングのソファで膝を抱えるようにして雑誌を読んでいると、お風呂上りの兄さんは感心したような声で言う。

「兄さんもそういう時期がきっと来るよ」
「え、そう?」
「うん、絶対」
「何の本?」
「それは内緒」
「えー、なんだよー」

兄さんには言えない。
恋愛についての雑誌だなんて。
彼氏ともう少し距離を縮めたいとか、そういう事が書かれた恋愛談義の雑誌なんて見せたら「玻ヰ璃が嫁にいくなんて淋しい」と今から泣かれかねない。
ぱたんと雑誌を閉じ、私もお風呂に入る事にした。
今日は念入りに洗って、髪もしっかりトリートメントしないと。
衿栖にもらった特別な日の前日にするパックも用意した。
なんでこんなに気合を入れているかというと、明日はお泊りするからです。

なんでも三日間ほど、憂漣さんが教会を空けるらしく、それで泊まりに来ないかと誘われたのだ。私はそのお誘いの時、食い気味に「泊まります!!!」と言ってしまって、紫鳶さんが少し照れていたのを思い出す。

だって好きな人とはいっぱい一緒にいたい。
今はもう0時を過ぎても傍にいられるのだから。
何度目かのお泊りになるけど、その度に私の心はそわそわと落ち着かなくなる。

 

 

お泊り当日を迎え、兄さんには「紫鳶さんに迷惑かけるんじゃないぞー」と快く送り出された。
私はドキドキしながらも軽い足取りで教会に向かおうとすると、透京の門を出たすぐそこで紫鳶さんが待っていてくれた。

「紫鳶さん!迎えに来てくれたんですか?」
「うん。荷物持つよ」
「ありがとうございます!でも重いんで大丈夫ですよ」
「重いなら尚更俺が持つよ」

紫鳶さんはそう言って私の手からずっしりとした手提げを受け取ると、もう片方の手で私と手をつないでくれた。

 

ドキドキしながら教会に着き、二人を夕食を作り、お風呂も済ませた。
初めて泊まった時は紫鳶さんのパジャマを借りたけど、最近は自分の寝着を持参するようにしていた。が、今日はわざと忘れてきた。

「紫鳶さん、着替え借りてもいいですか?」
「珍しいね。はい、どうぞ」

そう言ってお風呂に入る前に紫鳶さんは疑いもせず、替えのパジャマを貸してくれた。
私はそれに着替え、紫鳶さんの部屋へと戻った。

「良いお湯でした」
「ああ、おかえり。玻ヰ…リ!?」

ベッドに座って本を読んでいた紫鳶さんが私の声に反応して顔を上げると、私の出で立ちに驚いたのか、すっとんきょんな声をあげる。

「あれ?俺、下渡すの忘れたかな?」
「いいえ、ありましたよ。履かなかっただけです」

紫鳶さんから借りたパジャマの上だけ身につけた。
彼のサイズは大きいので、お尻くらいまですっぽり隠れている。
だけど、ちょっと恥ずかしいから服の裾をちょいちょい引っ張ってしまう。
なんで恥ずかしいのにこんな事をしているかと言うと、雑誌で読んだのだ。
『彼シャツに萌えない男はいない』とー!

ちょこんと、紫鳶さんの隣に座る。すると紫鳶さんはすぐ近くにあったひざ掛けを私のむき出しの太ももにかけてくれた。

「風邪引いたら困るからね」
「…部屋はあったかいし大丈夫です」

少し困った様子は彼氏というよりお母さんのようだ。
私は紫鳶さんがかけてくれたひざ掛けをどかすと、えいっと彼にしがみつきそのままベッドに押し倒した。

「えっ、玻ヰ璃!?」

紫鳶さんの胸に耳を当てると、ドクンドクンと心臓の音が聞こえた。
その音は少しずつ早くなっている気がして、もしかして紫鳶さんもドキドキしてくれたのかなとすぐ近くにある彼の顔を見るべく、顔をあげた。

「紫鳶さんもドキドキ、してくれてますか?」
「可愛い恋人のそんな姿見たらドキドキするに決まってるよ」
「ふふ、良かった」

紫鳶さんの胸に頬ずりすると、世界は反転し、気付けば紫鳶さんが私を見下ろす格好になっていた。

「あんまり可愛いことをして、俺をドキドキさせないで。心臓が持たないよ」
「嫌です」

紫鳶さんの首に腕を回すと二人の距離がぐっと近づく。
彼の綺麗な二色の瞳に自分が映る。

「もっといっぱい、私にドキドキしてください」

だって私は紫鳶さんにドキドキしっぱなしなんだから。
同じように紫鳶さんにも感じてほしい。

「俺のシンデレラには敵わないな」

紫鳶さんはそう言ってくすりと笑う。

「君の全部が愛おしいよ、玻ヰ璃」
「私もです、」

名前を呼ぼうとしたけれど、彼に唇を塞がれてしまう。
いつもより少しだけ大人なキスに私は心臓が壊れそうなくらいドキドキしてしまう。
紫鳶さんもそうだったら良いな。
彼の胸に手を当てると、その手もからめ取られてしまう。

「確認するのは禁止です」

紫鳶さんが恥ずかしそうに笑った。
その顔に今日何度目かのときめきを覚え、私は紫鳶さんをぎゅっと抱き締めた。

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