私のシンデレラ(カシハイ)

ガラスの靴を履いたシンデレラ。
キラキラと輝いて見えるのは、きっとガラスの靴のせいじゃない。
私の元に掻けて来た君は、とても眩しくて……綺麗だ

 

 

「あれ、歌紫歌?」

リビングを覗いてみても歌紫歌の姿はない。
今日は休日。店番もないし、せっかくだから歌紫歌とどこかへ行こうかなと思っていたんだけど、どこへ行ってしまったんだろう。
テーブルの上でお気に入りのクッションに抱きつくようにして眠るカンちゃんを見つけ、(可愛い……)としばし心奪われたが、歌紫歌を探さないと。

(どこに行っててもいいんだけど、歌紫歌って目を離せないところあるからなぁ)

カンちゃんが寒くないように、カンちゃん専用の小さなタオルケットをかけてから私は家を出た。

 

歩きながら周囲をきょろきょろと見ても、歌紫歌の姿はない。
もしかしたら隠れ家にいるかもしれないと一瞬頭をよぎるが、慌てて首を振る。
今の歌紫歌ならそこじゃないはずだ。
私はなぜかそう思った。そして、足は時計塔のある広場へと向かっていた。
噴水の周りは子ども達が駆け回ったり、カップルがデートをしていたりと賑やかで、歌紫歌はそこに一人でぽつんと座っていた。
その姿はどこか淋しそうで、子ども達を見守る視線は少しだけ優しい。

「歌紫歌!」
「おや」

名前を呼ぶと歌紫歌は私の方を向いた。

「見つけた。気付いたら家からいないから驚いちゃった」
「気分転換に散歩に来ていたんだ」
「散歩なら歩いててよ」
「でも見つけやすかっただろう?」

歌紫歌はぱちんとウィンクしてくる。
そうやって誤魔化すのは歌紫歌の癖のようなものだろう。
もしかしたらこの場所で、歌紫歌は瑠璃さんの事を思い出していたのかもしれない。
そんな事をさっきの淋しげな表情を見て、私は思っていた。
歌紫歌の隣に座り、隙間も作らないようにぴったりとくっつく。

「ねえ、歌紫歌」
「ん?」
「男の人の恋愛って、別名保存なんて」
「ん??」
「だけど女の人の恋愛って上書き保存らしいよ。
でも私には歌紫歌の前に凄く好き!っていう人がいなかったから分からないけど、衿栖が貸してくれた雑誌にはそう書いてあった」
「何の話をしているのかさっぱり分からないのだが?シンデレラ」

歌紫歌は困ったように私を見る。
その様子がちょっと可愛くて、くすりと笑ってしまう。

「だから、瑠璃さんの事思い出しても怒らないよ。それはきっと貴方にとって大切なものだから」
「……玻ヰ璃」

今の歌紫歌が、私を好きだという事は分かっているから。
愛されていると思えるから、私の心にも余裕が生まれた。

「今日はせっかくのお休みです。
だから一人でこんなところにいないで、デートしようよ」
「君は私がどこにいても見つけ出してくれそうだ」
「勿論だよ。絶対歌紫歌を一人にしないつもりだもん」
「それは心強い」

歌紫歌は眩しそうに目を細め、私を見た。
その表情に、私の胸はドキリと跳ねる。

「それでは行こうか、私のシンデレラ」
「エスコートしてね、私だけの王子様」

悪戯っぽく私が笑うと、歌紫歌も笑った。
気付けば、淋しげな表情はどこかへ消えていた。

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