お兄ちゃん(糸遠+カンパネラ)

最近、我が家に新しい家族が出来た。

 

「カンちゃん、今日もお魚食べたい?」
「キュイッ!」
「そっかそっか~。じゃあ、後で買いにいってくるね」
「兄さんが買いにいくとタイとか買っちゃいそうだから私が買ってくるよ」
「だってカンちゃん、タイも好きだよね?」
「キュイ!」
「タイも美味しいのは分かるけど、旬のお魚だって脂が乗ってて美味しいんだから!うまくやりくりしないと家計は火の車です」

我が家では妹が主に家事をしてくれることもあり、家計の財布は玻ヰ璃が握っている。
今まで兄妹二人で暮らしてきた我が家に新しい家族が出来たのだ。
それは歌紫歌とカンちゃんだ。
歌紫歌は時々店番や留守番をしてくれたりするし、カンちゃんは何より愛くるしい。
朝起きてカンちゃんに会ったら、まずおなかにもふもふする事が日課になってしまった。なんて幸せな日課だろう。

「カンちゃん、美味しいアジ買って来るからね。食べやすいようにたたきにしてあげる」
「キュイ~!」

玻ヰ璃の言葉にカンちゃんは嬉しそうに前足をばたばたとさせて玻ヰ璃の手にじゃれつく。玻ヰ璃も嬉しそうに頬を緩め、俺はその光景を見ながら今日も幸せだなぁと笑みを零した。

 

新しい家族が増え、家の中は賑やかになった。
それはとても嬉しいのだけれど、最近俺には悩みがある。
いや、悩みというか心配事だ。

「兄さん、今日も外へ行ってもいい?」

そう、玻ヰ璃が透京の外へ出かけるようになったのだ。
透京の呪いで、俺たちはガラスのものを身につけないで外に出るとガラスになってしまうのだ。
それが恐ろしくて、俺は玻ヰ璃に外に出ないように言ってきた。
けれど、最近きっかけがあって、玻ヰ璃は外に出るようになった。
きちんと約束事は守っているが、それでも心配してしまうのは仕方がないだろう。
店番をしながら、店内に飾っている時計をチェックする。
ふぅと小さなため息をつくと、俺の膝の上で丸まっていたカンちゃんが突然仰向けになった。

「カンちゃん、どうしたの?」
「キュイッ!」

まるでおなかをなでろといわんばかりにカンちゃんはのけぞる。
俺はそっとやわらかいおなかに手を載せて、ゆっくりと撫でていく。
ああ、心が落ち着く…癒される…
気付いたら表情は緩んでいた。

「キュイ?」
「カンちゃんには分かっちゃったのかな」

動物は人の感情に敏感だと聞いた事がある。
俺がため息をつくから励まそうとしてくれたんだろう。
そう思うとカンちゃんの事が愛おしくてたまらない。

「ありがとう、カンちゃん…お店閉めたら玻ヰ璃に内緒でタイ買ってあげるね」
「キュキュ!?」
「大丈夫大丈夫、俺のお小遣いから買うから安心して!」

鼻先をツンとつつくと、カンちゃんはくすぐったそうに前足で鼻をかく。
何をしても可愛らしい。まるで子どもの頃の玻ヰ璃みたいだ。
でも小さかった妹はもういない。来年で二十歳―つまり大人の女性になるんだ。

「でも、俺にとっては可愛い妹に変わりないんだから」

信頼していないわけじゃない。玻ヰ璃の選択が誤るとも思っていない。
だけど、心配してしまうのはもう長年の癖みたいものだ。

「ね、カンちゃん」
「キュイ!」
「よし!俺も頑張るぞ!」

玻ヰ璃が帰ってきた時に心配そうな顔を見せるより、きっと笑顔の方が安心するだろう。
だって俺はお兄ちゃんなんだから、妹を安心させてやらないと。
俺の想いが伝わったのか、カンちゃんが俺を応援するみたいに元気に鳴いた。

 

良かったらポチっとお願いします!
  •  (3)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA