私の生活範囲は、職場であるフクロウと現在の住居である寮、巡回する書店。
そして――
恋人である累の部屋。
「ツグミ、カフェオレが入ったよ」
累のベッドでシーツにくるまって彼の後ろ姿をぼんやりと眺めていると、私の大好きなカフェオレを入れた累はご機嫌な様子で戻ってきて、私の隣に座る。
「ありがとう、累」
受け取ったカップには、並々とカフェオレが入っていて私はくすりと笑う。
「作ってくれたのは嬉しいけど、こんなに沢山飲んだら眠れなくなっちゃうわ」
ここ最近、和綴じ本が書店に普段より多く仕入れられ、その確認に追われたり、雑務だなんだと慌しい日々が続いていて、累とゆっくり過ごす時間が取れなかった。
明日は仕事が休みなので、今夜は累の部屋に泊まることになったのだけれど、
夕食にカツレツを二人で食べに行き、お腹が膨れて満足した気分で累の部屋に入った途端、ベッドに引きずりこまれた。
食事をした後っていつもより…おなかが出ていないかしらと気になってしまうので、せめて消化してからと抵抗してみたものの「僕も同じだよ」とシャツを脱いだ累のおなかを見て「うそつき」と呟くくらいしか言うことができなかった。
「だって今夜はまだまだ寝ないんだから」
累はなんでもない様子でそんな事を言って、自分の分のカフェオレを一口飲む。
「寝ないって……これから何かするの?」
時刻はもうすぐ11時。
私が小首をかしげると、累はにこりと笑った。
「せっかく久しぶりにツグミとのんびり過ごせるんだからもっと君を味わいたいよ」
累の手が、私の腰をそっと撫でる。
それで彼の言いたいことがわかって、あっという間に頬が熱くなる。
「だって、今さっき…!」
「うん、そうだね。でも足りないんだ」
累の熱っぽい視線から逃げるようにカフェオレに視線を落とす。
カフェオレに罪はない。
そして何より美味しいけど、これを飲みきってしまったら累の言葉に頷いたことになるのだろうか。
少し温度が下がったカフェオレが早く飲んでくれと言っているようだ。
「ねえ、ツグミ」
「累…」
私の頬をゆるりと撫で、口付けを落とす。
「それ、飲み終わったら一緒にお風呂はいろうね」
「……駄目って言っても、聞いてくれないものね」
求められて嬉しくないわけないのだ。
本当に嫌がっていたら累はきっと求めてこないだろう。
一緒にお風呂に入る事はまだ恥ずかしい。
彼に求められる事だって恥ずかしい。
でも、累のことが大好きなのだ。
「仕方ない人」
私は累に向かって微笑んでから、残りのカフェオレを飲み干した。
今夜はとても長い夜になりそうだ。