「ルルー、ルルー」
ルルの姿を探して、あたりをうろつく。
いつも眠る時、ルルは必ずと言っていいほどエルのベッドにもぐりこんで来る。
今日もそうしてくれると思ったのに、眠ろうとベッドに潜り込んでもルルはやってこなかった。
猫は自由な生き物だから、放っておいたら戻ってくるだろうと思って目を閉じたけど、やたらと時計の音が気になって眠れない。
だから観念して、ルルを探す為に部屋を出た。
そして、うろうろしていると、ルドガーの部屋のドアが開いた。
「どうかした?エル」
「ルドガー」
もしかして眠っていたのかも。
なんだかいつもよりとぼけた顔をしているルドガーを見て、ちょっとだけ申し訳なくなる。
「ルルがいなくて…さがしてたの」
「ルルが?」
「エルは淋しくないけど!もしかしたらルルがどこかで困ってたら可哀想だと思って!」
そう、エルは淋しくなんてない。
エルは大人だから一人で眠る事なんて怖くないし、淋しくなんてない。
「ルルならこっちにいるけど」
「え!?」
ルドガーが部屋の中を見せるようにドアを大きく開く。
覗き込んでみると、ベッドの上にルルの姿があった。
「なぁーん」といつもの鳴き声を上げた。
「ルルったら…」
「連れて行くか?」
「……大丈夫」
ルルはルドガーの猫だもの。
たまにはルドガーと一緒にいたいのかもしれない。
今日みたいなやけに静かな夜は、好きな人と一緒にいたいのかもしれない。
気付いたら服の裾をぎゅっと握っていた。
「エル」
ルドガーは私の名前を呼ぶと、握っていた私の手をそっと開かせ、自分の手を重ねた。
「俺とルルと一緒に寝るか?」
「えっ…」
思いも寄らない言葉に驚いて、ルドガーを見つめる。
ルドガーはふっと小さく笑うだけ。
「…ルドガー、淋しいの?」
「どうだろう。ただちょっと寝つけないな、とは思ってた」
普段、あまり口数が多い方ではないルドガー。
「もしかして、てはいしょの絵が気に入らなくて?」
「かもな」
自分で話題に出したけど、ルドガーと、ルドガーのお兄さんであるユリウスの手配書を思い出してしまった。
あの絵はなんていうか……変だし、こわい。
「しょうがないから…ルドガーとルルと一緒に寝てあげるっ」
「ああ」
少し照れくさくて、ルドガーのベッドに駆け寄って既にごろんとおなかを見せているルルの隣に転がり込んだ。
「ルル、一緒に寝よ」
「なぁーん」
「もふもふ」
ルルのお腹に手を乗せるとふかふかとした毛並みに安心する。
ルドガーもベッドに戻ってくると、ベッドの上はあっという間にぎゅうぎゅうだ。
「せまい」
「もうちょっとこっちに寄れば?」
「…うん」
エル、ルル、ルドガーの順番で横になる。
ルルは身じろくと、エルたちの間から足元の方へ移動し、広々と横になっていた。
だからちょっとルドガーの方に寄った。
「…パパみたい」
「え?」
「なんでもない!おやすみ!!」
パパはエルのことが大好きだ。
一緒に寝る時、ぎゅうっと抱き締めてくれた。
その時、パパの胸の鼓動を聞いているとあっという間に寝てしまったのを思い出す。
そう、ルドガーの胸の鼓動がパパみたいだったから。
だから安心してしまうの。
ルドガーの部屋にも時計があるはずなのに。
今はもうそんな音気にならなかった。
そして、エルは眠りに落ちていった。