「こはる、どうかしたの?」
きょろきょろとある人を探していると、深琴ちゃんに声をかけられた。
「深琴ちゃん、こんにちは!
正宗さん、見かけませんでしたか?」
「ああ、正宗ならさっき向こうの方で駆と話してたわよ」
「ありがとうございますっ!」
教えてもらった方へ駆け出そうとすると、くすりと深琴ちゃんが笑う声がした。
「どうかしました?」
「ううん。ただ、こはるっていつも正宗を探してる気がして…その姿がなんだか似てる気がして」
「似てる?」
深琴ちゃんの言葉に私は思わず小首をかしげると、深琴ちゃんは私に似ているというそれを教えてくれた。
◇
「正宗さん~!大丈夫ですかー?」
先日、台風が村の近くにやってきた。
そのせいで村はすっかり荒れてしまい、台風が過ぎ去った今、みんなそれぞれ掃除に励んでいる。
私たちはというと、図書館の周囲に落ちている大きな木の枝や、どこかのおうちから飛んできたと思われるバケツやプランターなどを片付けている。
ふと、空を見上げると図書館の屋根に引っかかっているタオルやら何やらが目に入り、それを撤去するために正宗さんが屋根の上に登っている。
「大丈夫だ!こはるは片付け終わったら先に図書館の中に入っていろ!」
「いえ、そういうわけにはいきません!」
屋根の上にいる正宗さんを放っておけるわけがない。
何も出来なくても、やりとげるまでその姿を見守っていたい。
私はうっかり足を踏み外したりしないように胸の前で手をぎゅっと握って祈るようにして、正宗さんの様子を見つめていた。
正宗さんは屋根に手をつきながら、次々とひっかかっているものを回収していく。
その手際の良さに、何も心配することはなかったとホッとする。
最後の一枚を回収すると、正宗さんは足場を確認しながらゆっくりと地上へ戻ってきた。
「お帰りなさいっ!お疲れ様です…!」
無事に戻ってきてくれた事が嬉しくて、私は思わず正宗さんの胸に飛び込んだ。
正宗さんは驚いた様子で、でも私のことをしっかりと受け止めてくれる。
「そんなに心配しなくても大丈夫だっただろう?」
「はい!でも大丈夫だと思っても心配してしまうんです」
正宗さんが怪我しないよう、風邪もひかないよう、いつでも元気にいてほしい。
優しい正宗さんは、自分の事より他の人のことばかり優先してしまうから私は正宗さんのことを一番に考えてしまうんです。
その時、ふと昔深琴ちゃんに言われた事を思い出した。
「私はひまわりに似てるそうです」
「え?」
「以前、深琴ちゃんに言われたんです。私は正宗さんの姿がないと、正宗さんを探していて。正宗さんがいると、そっちばかり見つめて。
その様子がまるでひまわりみたいだと言われました」
私がひまわりなら、正宗さんは太陽。
その言葉は私のなかでとてもストンと受け入れられた。
正宗さんは何かを堪えるみたいにぐっと息を止め、それから私の肩に額をすりつけてきた。
「どうしてお前はそう……可愛いんだ」
正宗さんがとても小さな声で何かを呟いたのに、ぐりぐりされる額が少しくすぐったくて聞き逃してしまう。
「正宗さん?」
「いや、なんでもない。掃除ももういいだろう。図書館の中へ入ろう」
「はいっ!」
正宗さんと手をつないで、図書館へと歩き出した。
図書館のドアノブに手をかけた正宗さんが何かを思い出したかのようにぴたりと動きを止めた。
「でも……俺も、こはるの姿がないと探してしまうからお互い様だな」
「…っ」
正宗さんが笑うと、それだけで私も嬉しくて笑ってしまう。
正宗さんが困っていると、私に何かできないかと傍に駆け寄ってしまう。
正宗さんが泣いたら…多分私も泣いてしまうと思うけど、優しく彼の頭を撫でてあげたい。
正宗さんもきっと同じように思ってくれているんだ。
そう思わせるような顔で、正宗さんは少し照れくさそうに笑って、私の頭を撫でてくれた。