いつも通り、夕食が終わるとミクトの部屋で過ごす。
ミクトは私よりもずっと器用で、見ているだけで飽きない。
そんなある日の事。ミクトの部屋にあった手芸の雑誌を読んでいて、それが目に留まった。
「ミクト、これなんですか?」
「どれ?ああ、それはあみぐるみって言うんですよ」
雑誌を広げて、くまのぬいぐるみを指差すとミクトが教えてくれる。
「あみぐるみ?」
「ええと、毛糸で編んで作るぬいぐるみ。
だからあみぐるみっていうんですよ」
「へぇ・・・凄いですね、毛糸で出来るなんて」
ぬいぐるみを作ったことはないけれど、型を作って、それに合わせて布を切って・・・という作業なんだろう、と想像するがあみぐるみは全然想像がつかない。
「一緒に作ってみますか?」
「え、いいんですか?」
「一緒に可愛いあみぐるみ、作りましょう」
私を安心させるようにミクトはにこりと笑ってくれた。
さすがというべきか、ミクトの部屋に材料も道具も揃っていたので、
すぐ作業に取り掛かることにした。
「フウちゃんは毛糸、何色にしますか?」
赤、青、緑・・・・色とりどりの毛糸があって、どれにしようか一瞬目移りしてしまいそうになるが、やはりここは・・・
「この色にします」
朱色と黄緑の毛糸の玉を選んだ。
「じゃあ、僕はこれにします」
ミクトはピンクと水色の毛糸の玉を手に取った。
多分、お互いに考えていることは一緒のようだ。
「あの・・・聞いてもいいですか?」
「なに?フウちゃん」
「ミクトが選んだ色って・・・私の、色ですか?」
「もちろん。折角作るんならフウちゃんみたいに可愛いものを作らないと」
「っ・・・!」
そんな風に言われるなんて恥ずかしくて、つい頬を赤らめてしまう。
そんな私を見て、ミクトは毛糸を持つ私の手をきゅっと握り締めた。
「フウちゃんが選んだ色は、僕・・・ですか?」
「・・・はい」
「ふふふ、嬉しい」
ミクトが顔をそっと近づけてきて、私の頬に口付けた。
そういう行為は何度しても恥ずかしいけど、嬉しい。
「頑張って作りますね」
「はい、僕も頑張って教えます」
それからは毎日少しずつ、ミクトに教えてもらいながら編み続けた。
ミクトは私の速度に合わせてくれるので、私は間違えたり、いびつにしてしまったりもするけれど、胴体に綿をつめるところに来た時は本当に嬉しくて、何度も何度も自分が作っているそれを見てしまった。
胴体と頭が出来て、手足も作り終わり、あとは繋ぎ合わせるだけ、というところまで来た。
「やっぱりミクトは器用ですね」
ミクトの手の中に収まっているそれも、まだ繋ぎ合わせていないパーツだが私のものより形や網目が綺麗だった。
「フウちゃんだと思って、一針一針気持ちを込めました」
私に教えながら、身体を繋いでいく。
ミクトの手の中にある愛らしい熊のあみぐるみが私のことを見ていた。
「出来ました・・・!」
ミクトと同じように身体を繋ぎ合わせると、私の手の中にもミクトの色をした熊のあみぐるみが収まった。
「初めての割にフウちゃん、よく出来てますよ」
「本当ですか?嬉しい」
ミクトに褒められると素直に嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
「フウちゃんさえ良ければ、交換しませんか?」
私の色をしたミクトのあみぐるみを両手で差し出される。
「でも、私のはミクトのものに比べてちょっといびつで」
「僕はフウちゃんが作ってくれたものを貰いたいし、僕が作ったものをフウちゃんにあげたいんです。駄目ですか?」
「その聞き方は・・・反則です」
上目遣いで、目の前にいるミクトを睨むがミクトは気にする風でもなく、ふふふ、と笑った。
だから私もミクトの色をしたあみぐるみを彼に差し出した。
「ありがとうございます、ミクト」
「僕も、ありがとう」
なんだか気恥ずかしくて、ミクトの肩にもたれかかる。
なんていえばいいんだろう、このむず痒いような気持ち。
「・・・ミクト、大好きです」
「僕もフウちゃんが大好き」
そう言いあって、どちらからともなく唇を重ねる。
ミクトの唇は少しかさついていて、伝わってくる体温で私の呼吸も上がる。
漏れる吐息さえ、自分のものするんだというようにキスが深くなる。
そんな私たちの様子を見ているのは、私たちと同じ色をしたクマたちだけ。
でも、ミクトのこんな姿は他の誰にも見せたくないからクマたちの顔をそっと背けてからキスの続きをした。