私は今、凄く困ってるんです。
なぜかっていうと、私の膝の上で寝息を立てていたはずの恋人にいつの間にか押し倒されてしまったから。
それ自体は・・・問題じゃないんだけど、場所が!
ここは緑の滴亭の地下。
なんでそんな状況になったのかというと、話は1時間程前に遡ります
*****
「ラン、これすっごい美味しい!」
「じゃあ食べてみようっと」
ユリアナと隣に座り、コレットも交えて話をしながら食事を進める。
緑の滴亭は何を食べても美味しいけど、新メニューの魚介類のパスタが凄く美味しくて口に運ぶ度に幸福な気持ちになる。今日はパシュ、ラスティン、アサカ、ニケ、ソロンも来ていてわいわいと楽しい時間を過ごしていた。
「そういえばデザート作ったんです!良かったら」
コレットが、作っておいたデザートの頃を思い出したらしく両手をポン、と合わせるとキッチンまでパタパタと戻ってデザートを運んできてくれた。
「すっごい美味しそう!」
「プディングです」
「じゃあいただきまーす!」
ユリアナとそれぞれ受け取り、クリーム色の柔らかなそれを掬い上げて口に運ぶ。
口の中に甘さがいっぱい広がる。
「コレット!すっごく美味しい!」
「試作品なんだけど喜んでもらえて良かった」
今日は本当に幸せ!
明日はお休みだし、今日はもう少しのんびりしても大丈夫だろう。
そんな事を考えているとき、ばたーんと勢いよく何かが倒れる音がした。
「え?パシュ?」
音をした方を見ると、パシュが床に転がっていた。
「どうしたの?」
慌てて駆け寄って抱き起こす。
よく見るとパシュの顔は真っ赤で、少しお酒臭い
「ラン、ごめん。ちょっとだけのつもりだったんだけど、気付いたらパシュ凄い飲んでた」
ラスティンが申し訳なさそうな顔をしながらパシュに肩を貸す。
「下で休ませておいてやれ」
ギードに言われて、ラスティンがそれに頷いてそのままパシュを運んでくれる。
私は水をコップに汲んでから二人を追いかけた。
緑の滴亭の地下にいくのは初めてで、どんな場所だろうとドキドキしていると、広いスペースにベッドのような家具もある。
多分、ギードたちの休憩場所とかに使われているんだろう。
「ラン、申し訳ないけどパシュについててやって」
「うん、もちろん」
ラスティンが上に戻るのを見送った後、横になったパシュの隣に腰かけると、パシュの頭をそっと撫でる。
普段お酒呑まないのに珍しいなぁ・・・
顔を真っ赤にして眠るパシュは普段より少し幼く見えて可愛い。
たまにならこういうのも良いかもしれない。
なんて考えながらくすりと笑うとパシュがうっすら目を開いた
「パシュ、大丈夫?」
「ん~・・・だめかも」
ずりずりと身体をずらすと頭を私の膝の上に乗せてきた。
お酒に酔うと人恋しくなったりするのかな?
膝枕をしてあげると、パシュは寝息を立てて眠った。
少しの間眠っていたけど、酔っているせいなのか眠りが浅くてすぐ目を覚ました。
「ランのひざ、きもちいい」
パシュの手が私の太ももに触れる。
パシュの手のひらは熱くて、そのせいで触れられた部分は熱を持ったみたいに熱くなる。
「ん・・・」
手で触るのに飽きたのか、今度は太ももにチュ、チュと音を立てながらキスされる。
その行為が凄く恥ずかしくてさっきまで太ももに感じていた熱が全身に行き渡ったかのように熱くなっていく。
「パシュ、恥ずかしい・・・」
たまらなくなってそういうと、パシュは潤んだ瞳で私を見上げた。
その瞳に自分が映りこんでると思った時にはもう唇が触れ合っていた。
啄ばむようなキスを繰り返しながらも、パシュは私の下唇を軽く吸い上げて唇を開かせると私の舌に自分のそれを絡める。
口内にはお酒の味が広がって、漏れる声すら奪われるみたいに深く口付けられる。
「っ・・・んっ、ふ」
「ラン、あまい・・・っ、」
それはきっとさっき食べていたプディングの味だろう。
そんな言葉紡げるはずもなく、パシュからのキスに必死に応えてるうちに気付けば彼に押し倒されていた。
「パシュっ!ちょっと待って!上にみんながっ・・・!」
「いいから、黙って」
普段のパシュからは想像がつかない声色。
いつもより低めの声で耳元でそんな事言われたら黙るしかない。
お酒のせいだとしても、こうして求められるのが嬉しくないわけない。
首筋に彼の体温を感じて思わず目を閉じたその時だった。
ガタン!と音がして私は驚いてパシュを思い切り突き飛ばしていた。
「パシュ大丈夫ー?・・・ってどうしたの?
二人とも」
降りてきた人物はユリアナだった。
ひっくり返っているパシュと、真っ赤な顔をしている私を見て首をかしげた。
「なんでもないよ!大丈夫、うん!」
「パシュ、寝てるの?」
「そうみたい!しばらくこのままにしておこう!」
ユリアナの返事を待たずに私はユリアナの手を掴んで地下を後にした。
酔いのせいなのか、私に突き飛ばされてダウンしたのか分からないけどパシュはラスティンが起こしにいくまでそのままだったみたい。
次の日、綺麗さっぱり酔っ払っていた時の事を忘れていたパシュのほっぺたをつねって仕返しした。
(でも、たまにはああいうパシュも悪くないかも・・・)
いつか二人でお酒を呑んでみようと誘おうかな、なんて考えたのは私だけの秘密。