不確かだけど確定した未来の話をしよう(千木良×風羽)

時間が経つのはあっという間だ。
一番弟子を人間にした日の事をまるで昨日のように感じるのに。
実際はとうの昔にあいつは死に、今はあいつの子孫である風羽が自分の腕の中にいる。
「む」
抱き枕代わりに抱き締めていた風羽が、俺の顔をみて少し困ったような顔をした。
それが気に食わなくて、少し困るくらいなら全力で困らせてやろうと、風羽の鼻をつまんでやる。
「ふえんぱい…」
「変な声やな」
鼻をつままれて変な声でしゃべる風羽を見て笑うと、変だと思うなら手を離して欲しいという意思を目から感じたので、仕方なく離してやった。
「……千木良先輩は時々、遠くを見ていますね」
言葉を選ぶように、風羽はそう言った。
「アホ、お前の事考えとっただけや」
自分で口にした台詞だがこんな気持ち悪い台詞を冗談ではなく、さらりと言えてしまった事に驚く。そしてー
「おお…」
風羽は少し頬を赤らめた。
何度見ても、そういう反応をされるとむず痒い…というか、たった十数年しか生きていない人間の小娘に心を奪われているのだなと痛感する。
「先輩は口がお上手です」
「喧嘩売っとんのか」
「私を喜ばせる天才だと思っただけです。誤解させてしまったのなら申し訳ない」
「……お前は」
お前だって俺を喜ばせる天才だろう。
自分が言った事した事で、好いてる女が喜ぶなんて男冥利に尽きるだろうが。
風羽といると、余計な言葉が出てしまう。
言う必要のない言葉だと思うのに、風羽が笑ったり、困ったり、喜んだりするもんだからついつい言ってしまう。

十年前、母親が亡くなったばかりの風羽は見ていて痛々しかった。
だからじいさんとはぐれた風羽を放っておけず、手を取ってしまった。
多分、あの時からこうなる事が決まっていたんじゃないだろうか。

風羽の腰に回していた手に力をこめ、ぎゅっと抱き締める。肩口に顔を埋めると石けんの優しい香りがした。
「なあ、風羽」
「はい」
十年後も変わらず、風羽は俺の腕の中にいるだろうか。
「これから先、どうなるか…とか考えるか」
「もちろん考えます」
「どないな事を?」
「先輩に元気な子どもをたくさん産むと約束しましたし、それを実現するために今後のことは考えます」
「……」
「きっと十年後は、私と先輩の子供たちとこうやって一緒に眠ってますよ」
「複数は確定か」
「ええ、もちろん。大丈夫です、私は安産型と言われた事もあります」
「あほう、そないな台詞はセクハラや」
「む。それはそれは…」
甘えるように風羽の肩に額をすりよせてから、顔を上げる。すぐ近くに好きな女がいる。優しげな笑みを浮かべて俺を見つめる。
「しかし、俺もがんばらなあかんな」
この年になって子育ての予定が入ろうとは。まだいるわけもないが、風羽の腹を撫でてやると、風羽は嬉しそうに微笑んだ。小さく笑って、風羽に顔を寄せる。
十年後も二十年後も、ずっとその先も。
ずっと一緒にいられますように、と乙女チックな事を願いながら風羽にそっと口付けた。

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