悪夢はもう見ない(陸ネリ)

突然ぎゅっと抱き寄せられて、眠っていた私は目を覚ました。

「……りくさん?」

まだ夜が明けていないようなので、部屋は薄暗い。
後ろから抱き締められている格好になっているので、隣で眠る陸さんの表情は見えない。
すぅすぅと彼の寝息が耳元にかかる。
ぐっすり眠っていることに安心するが、ちょっと…いや、大分心臓に悪い。

(でも…良かった)

最初の頃は、薬の離脱症状なのか、酷く悪夢にうなされていた。
その事に気付いたのは陸さんが部屋に遊びに来ていた時だった。
連日のレポート提出に追われて睡眠時間を削っていたせいで陸さんは居眠りをしてしまった。最初は穏やかに眠っていたのに、気付いたら眉間に皺を寄せて、苦しそうにうなされ始めたのだ。
長い年月、薬に侵食されていた身体から薬を抜くということが大変なことだというのを私はその時初めて知った。
震える手に気付かれたくなくて、私は強く強く陸さんの手を握り締めた。
もう、悪夢なんかに陸さんを渡さないために。

治療の甲斐あって、陸さんは普通の生活に戻ることが出来た。
平気だというけれど、その言葉を信じきれず、私は時々陸さんに部屋に泊まって欲しいとねだった。

『ばっ…そ、そんな真似できるわけないだろう!』

真っ赤になる陸さんをなんとか説得し、泊まってもらった夜、私は陸さんが眠りにつくまでずっと手を握って、彼を悪夢に渡さないように祈った。

 

泊まってくれるようになってから、陸さんがうなされる姿を見た事がない。
今も気持ち良さそうに眠っているようだ。
安心して、私ももう一寝入りしようと目を閉じた時だった。
首筋にぽたり、と冷たいものが落ちるのを感じた。

「陸さん?」

陸さんの腕の中、なんとか身体の向きを変えて振り返ると、陸さんは涙を流していた。
もしかしてまた悪夢を…?怖くなって陸さんの肩を強く揺すった。

「陸さん、陸さん…!」

なかなか目を覚まさない陸さんに焦れて咄嗟に「陸っ!起きて!」と強く言ってしまった。

「…ん、ネリ?」

「良かった…っ!」

まだ覚醒しきってはいないようだけど、眠そうに目を開けた陸さんを見て私は嬉しさのあまり抱きついてしまった。

「~っ!!ちょっ!」

「あ、ごめんなさい!つい…」

大胆なことをしてしまったと身体を離すと、陸さんはコホンと咳払いをした。

「いや、それよりどうした?眠れなかったのか?」

「いえ…陸さんが泣いてたので、不安になって。すいません」

「俺が…?ああ、そうか」

陸さんは目元をぬぐうと、私をそっと抱き寄せた。

「お前がいなくなる夢を見た。
一緒に笑い合っていたのに突然ふっとお前が消える夢だった」

「陸さん…」

「そんな顔するな。昔見ていた悪夢とは違う」

「はい」

陸さんに身体を寄せる。
静かな部屋の中、とくんとくんと陸さんの鼓動だけが私に届く。

「陸さん、寝てるとき私のこと抱き締めました」

「そんなわけ…!いや、お前は温かいからついつい抱き締めたくなるんだ」

「いっぱい抱き締めてくださいね」

陸さんが怖い夢をもう見ないように。
私だけを捕まえていて。

「お前はたまに恥ずかしい事を…!」

「ふふふ」

「お前が嫌だって言ってもずっと離してやらないからな、ネリ」

「嫌だなんて言いませんよ。だからずっと離さないでね、陸」

陸の身体に腕を回すと、彼の鼓動が早くなった。

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