人のぬくもりって温かい。
それは誰かに優しくされた時に感じる温かさとは違う、直接触れることによって知る温かさだ。
子供の頃はよくお母さんにぎゅうっと抱き締められ、お父さんには抱き上げられた。
だけど、成長していくにつれ誰かと抱き合うなんて機会は減っていった。
「どうかしたのか?」
「んー?どうもしないよ」
ルナリアの木の傍でヴィルヘルムが胡坐をかいて座っているのを見つけた。
驚かしてみようと思い、私は気配を殺して近づいてみるがそんな小細工がヴィルヘルムに通用するわけもなく「何してんだ?」とつっこまれてしまう。
私が隣に座ると思ったヴィルヘルムは位置をずれようとしてくれたので、それを止めて背を向けて座って欲しいとお願いしてみた。すると、さっきのような台詞を言われたのだ。
ヴィルヘルムの背中は広い。
彼の背中にそっと右手を乗せて、ゆっくり撫でてみる。
服の上からでも分かるくらい鍛えた身体。
これはヴィルヘルムが頑張ってきた証だということを私は知っている。
その背中が愛おしくて、私は甘えるようにヴィルヘルムの背中にもたれかかった。
ああ、あったかい。
耳をすませると、ヴィルヘルムの鼓動が聞こえてくる。
サァ…と風が吹いて、木々が揺れる。
ただ、こうして寄り添ってるだけでどうしてこんなに幸せだと思うんだろう。
「なあ、ラン」
「なぁに?」
「動いてもいいか」
「んー、まだ駄目」
「…なんだ、それ」
「もうちょっとだけ」
「あっそ」
それ以降、ヴィルヘルムは私が満足するまで動く事はなかった。
だけど、ちょっとだけ鼓動が早くなったことに私はひっそりと笑みを零すのだった。