このセカイはまるで椅子取りゲームのようだ。
誰もが求める場所にたどり着けるわけではない。
オレが求めたのは、初恋の人の隣。
「湊戸、一緒に帰ろう」
「…アキちゃん」
教室まで迎えにいくといつも困ったような顔をする。
朝迎えにいってもそうだ。
いつだってオレの顔をみて困ったように笑う。
十年前で止まった時間は彼女の笑顔まで奪ってしまったようだ。
困った顔に気付いていないふりをしてオレはいつも彼女の隣でへらりと笑う。
お互いに作った笑みしか見せれなくなったのは、あの事故が原因だとしても。
十年という長い時間、オレの求める場所はもういない彼女の初恋の人が奪い続けている。
彼女を家に送り届けた帰り道。
子どもの時、みんなで遊んだ公園の前を通りかかった。
子どもの時のオレは身体が弱くて泣き虫で、いつもいじめられていた。
そんなオレを助けてくれたのは、君だった。
今度はオレが君を助けたいというのは身勝手な言い分。
ただオレが隣にいたいだけ。
オレは君の笑顔が見たかった。
「ねえ、アキちゃん」
館から戻ったオレたちを待っていたのは、動き出した時間だった。
「ん?なあに?キスでもしたくなっちゃった?」
「違うよ!」
「冗談だよー、アイちゃんってばお固いんだから」
以前のように教室へ迎えにいっても、朝迎えにいってもアイちゃんは困ったように笑わなくなった。
オレを見て、優しく微笑んでくれるようになった。
それだけでも泣きたくなるくらい嬉しい。
「…手、つないでもいい?」
アイちゃんから珍しくそんな可愛いおねだりをされて、オレはすぐ左手を制服で拭く。
「はい、どうぞ」
「拭かなくてもいいのに」
差し出したオレの手を、アイちゃんがきゅっと握った。
オレより小さなその手が愛おしい。
ただの学校からの帰り道なのに、こんなにも幸せな時間ってあるんだろうかと思うくらいオレは幸せだ。
ずっと君の隣にいるのが、オレだったらいいのにって願ってたから。
今度はオレが君を守りたいってずっとずっと思っていたから。
隣を歩くアイちゃんを見ると、照れくさそうだった。
「アイちゃん、自分から手繋ごうっていったのに照れてる」
「だ、だって…!手なんてあんまり繋がないから」
「だったらこれからはいっぱい手を繋ごうねー」
「…うん」
調子よく言った言葉にアイちゃんは恥ずかしそうに微笑みながら頷いてくれた。
「オレ、アイちゃんが笑ってくれるだけで幸せだなーって思っちゃうんだよね」
「アキちゃん…」
繋いだ手に少しだけ力を込める。
それに応えるみたいにアイちゃんもオレの手を握り返してくれた。
「あとはオレのこと、大好きになってくれたらなーなんて」
俺たちなりの速度で。
ゆっくりと恋をしていけたらそれでいいのに。
可愛すぎるアイちゃんを見ていたら、ちょっとだけ欲張りな気持ちが漏れてしまう。
アイちゃんはオレの方を向くと、優しく笑った。
「もう…私は、アキちゃんのこと大好きだよ」
何よりも欲しかったセカイが、ようやくこっちを向いた。