何歳から大人で、何歳までが子どもなのか。
そんなものは明確には分からない。
お酒を飲めるようになったからといって大人になったわけではない。
「世裏さん、大丈夫ですか?」
「ん~?だいじょーぶだいじょーぶ」
私が二十歳になってから、二人でこうやってちょくちょくお酒を飲むようになったけど、初めてお酒を飲んだ時に私がひどく酔っ払ったのをきっかけに思い切り飲む時は家で飲むというルールが出来た。
今日は翌日、世裏さんの仕事が休みということもあり、思い切り飲もう!という事になり、世裏さんの家でお酒を飲んでいた。
酔っ払う割合は私のほうが高いと思うけれど、今日は珍しく世裏さんの方が先に酔っ払ってしまったようだ。
「酔っ払いの大丈夫はあてになりません」
「まぁまぁ。ほら、君ももう少し飲みなさい」
そう言って、まだグラスに半分以上入ったチューハイを勧めてくる。
勧められるまま私はちびちびと飲むが、そんな私を世裏さんがご機嫌に見ていた。
「世裏さん、あんまり見られたら恥ずかしいです」
「照れてる未白ちゃんもかわいいよ」
「…そういう事は酔っていない時に言ってください」
「じゃあ、今言わなくてもいいのかな?」
「…酔ってる時でもそうじゃない時でも言ってください」
「素直でよろしい」
世裏さんは嬉しそうに笑うと私の頭を撫でる。
酔っ払っているからか、いつもより少し雑になでられている気がするけど、それも新鮮で私は大人しくそれを受け入れる。
世裏さんは恥ずかしがり屋で、あんまり好きとかそういう事を言ってくれない。
照れる彼に言わせるのもちょっとだけ楽しいんだけど、調子に乗ると「大人をからかうんじゃありません」って怒られてしまう。
「世裏さん、大好きです」
「俺も君のことが、大好きだよ」
まるで猫がすりよるみたいに世裏さんは私の肩に擦り寄る。
年上の男の人に可愛いなんて言っちゃダメかもしれないけど、やっぱり世裏さんは
「可愛いんだからしょうがないよー」
「ん?なんか言った?」
「世裏さんが可愛いから困ってるんですー」
「おっさん捕まえてかわいいはないんじゃないですかぁ?」
「ふふ、だって」
可愛いと思うのはしょうがない、と言葉を続けようとすると視界が急に反転した。
頭の後ろに回された手によって、衝撃はあまりなかったけど…
この体勢は、組み敷かれている
「よ、世裏さん?」
「かわいいのは君の方でしょ?」
狼につかまってしまったウサギのような気分といっていいんだろうか。
熱に浮かされた瞳に捉えられ、私は言葉がもう出てこない。
「んっ」
重なった唇はいつもより凄く熱くて。
まだ酔ってなかったはずなのに、頭がくらくらしてきた。長いキスから解放されると、世裏さんは私の耳朶にキスを落とした。
「っ…!世裏さん…!」
「未白ちゃんも酔っ払ったのかな?顔、すっごい赤いよ」
お酒のせいではない火照りを指摘されると、より一層顔に熱が集まる。
「私が酔ったのは、お酒にじゃなくて…世裏さんにです」
私の上にいる彼をじぃっと見つめて、そんな恥ずかしい台詞を言う。
「はぁ…君には参りました」
「じゃあ、もう一回キスしてください」
さっきの世裏さんは可愛いなぁ、と微笑んでいた世裏さんじゃなくて…
悔しいくらいにかっこよくてドキドキしてしまったから甘えるようにキスをねだってみる。
世裏さんもお酒のせいだけじゃない頬の火照りを誤魔化すように小さな声で「可愛いのは俺じゃなくて、君だよ…」と言って、もう一度キスをしてくれた。