少し早く起きた朝、小さな幸福(実彰×香夜)

朝、いつもより少し早く目覚めた私は身支度を整えると台所に立ち、朝食の準備を始めた。
ついこないだまで父様と自分の分を用意していたのに。
用意する分は同じでも作る相手が違う。

「おはよう、香夜さん」

「おはようございます、実彰さん」

声をかけられ、振り返ると実彰さんが立っていた。

「私も手伝おう」

「いえ、もうすぐ出来ますので待っていてください」

「そうか…分かったよ、香夜さん」

そう言いながら実彰さんは私を後ろから黙って見つめている。
さすがに見つめられたままだと少し気まずくて、振り返ると実彰さんはどこか嬉しそうな顔をしていた。

「どうか、しましたか?」

「いや…あなたが私のために食事の用意をしてくれているのがなんだか嬉しくてつい見つめてしまった」

居心地が悪かったなら申し訳ない、という実彰さんが少しだけ可愛くて。
その気持ちも凄く嬉しくて、私は自然と笑みが零れた。

「私も厨房に立つ実彰さんを見るの、凄く好きです。
お客さんのためにお料理を作る姿を見ているだけで凄く幸せな気持ちになります」

日ごろ考えている想いを言葉にすると、ふわりと優しい体温が私を包んだ。

「私は厨房からあなたの声を聞くだけで凄く幸せな気持ちになっているよ」

「…実彰さん」

私を後ろから抱き締める実彰さんの体温が、好きだと思った。
好きだという想いが、はらはらと降り積もる雪のように私の心に溢れていく。

「お料理、もうすぐで出来ますから…」

「ああ、すまない。だけど、もう少しだけこのままでいてもいいだろうか」

「…はい」

少し早く起きた朝。
早起きすると良い事があるというけれど、私にとってはとびきりの幸福な出来事が起きた。
きっと今日も一日、素敵な日になるだろう。
何でもない日でも、実彰さんといるとそんな毎日が続くのだ。
そんな事を想いながら、実彰さんの手にそっと触れた。

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