「例えば、だけど」
「? うん」
薪や食料を求めて、雪が止んだ頃を見計らって外に出た。
誰も通っていない証のように真っ白な雪原は何度見ても美しいと思った。
しかし、生活のためには何分色々必要だ。
一歩一歩踏みしめて歩くと、ふと手がぬくもりに包まれた。
「目が覚めた時、オレがいなかったらどうする?」
レビの手は、自分よりも冷たくなっていたがそれでもその手を離したいとは思わなかった。
強く握り返すと、不安げな瞳をしたレビがこちらを向いた。
「そうだなぁ…まず、怒るかな」
食料になりそうなものなんてなかなか見つからない。
やっぱりそろそろ住み家を変える必要があるかもしれない。
薪になりそうな木の枝を拾う。
手を繋いでいると、拾いにくいけど今手を離したらいけない気がした。
「それからすぐ家を飛び出してレビを探しに行くけど…
でも、きっとレビは家の前とかでうずくまっている気がするから。
その時は、レビの手を握るかな」
言葉の一つ一つを噛み砕くように、レビは何も言わないで私の言葉を最後まで聞いて、そして笑った。
「…なんだよ、それ」
「レビが言い出したんだろ」
不貞腐れたのかと思いきや、次の瞬間レビが急に飛び掛ってきて、雪の上に二人で転がった。
「レビ…っ!あー、薪が」
「あー…あー、悪ぃ。なんだよ、もう」
悪いなんて思っていないくせに、レビは謝罪の言葉を口にしながら私をぎゅうっと抱き締めた。
好きな人に抱き締められて、嬉しくないわけがない。
だから、私もレビの背中に手を回した。
「ったく。拾うの手伝ってよ」
「分かってるって」
止んでいた雪がまたはらはらと降り始めた。
いつもだったら焦るけど、今はこうしていたいと強く思った。
「レビ!急がないとまた吹雪くから!」
散らばった木の枝を拾い、それから食料になりそうな山菜を雪をかけわけていくつか見つけて、私たちは雪の上を懸命に歩いた。
「お前、歩くの早いんだよ!」
「レビより雪道に慣れてるからね。
それはいいからほら、」
私は繋いだ手を強く引く。
レビはそれだけで嬉しそうに笑うから、私もそれで嬉しくなってしまう。
さっき二人で倒れこんだところにはもう雪が積もって、跡なんてなくなっていた。
もしかしたら私たちなんて、その程度の存在なのかもしれない。
けど、レビと手を繋ぐだけで生まれる幸福はきっと他の誰かに理解されるものではない。
それでいいし、それがいいのだ。
「ジェド」
「ん?」
「さっみいなぁ」
「ああ、寒いな」
「早くオレたちの家に戻らないとな」
「うん、そうだね」
晴れでも、雪でも、家があろうがなかろうが。
レビがいるならそれでいい。
たった一つの幸福を、私は逃がすまいと強く握った。