血が繋がっているからといって相手のことが他人よりも分かるわけではない。
「おーい、アリシア。なんか元気ないぞ」
私の名前を気遣わしげに呼ぶ(一応)血の繋がった兄が何を考えているのか私には分からない。
頬杖をついて見守っていた兄のよく分からない研究を見守っていた。
私には無縁の何かを兄は懸命に追いかけているようだ。
何を追いかけているのかは知りたくない。
「あんたって嫌な人よね」
「そうかぁ?こーんなにいいお兄ちゃんはなかなかいないと思うけどなぁ」
「あんたのどこがいいお兄ちゃんなのよ」
小さい私の手を離したくせに。
それをうらみに思っているわけじゃないけれど、あの頃の私にとってマイセンはトクベツだった。
魔法が使えない私の手を握って、笑ったり…時には泣きそうになったり一生懸命になってくれたたった一人のひとだったのに。
兄離れが出来ていないんだろうか。
その考えにちょっとだけ腹が立つ。
「あんたはもう離れたのにね」
私だけが縋るなんて冗談じゃない。
そう思いながらも夜毎、兄のいるこの場所へ来てしまうのはどうしてなんだろうか。
「アリシア、ちょっとこっち来いよ」
「なに」
私を手招きするマイセン。
小さい頃もそうやって私のことを呼んだことをふと思い出した。
「ほら」
動こうとしない私にため息をつくこともせず、マイセンは私へ一歩一歩近づいた。
そうして、彼は自分の両手にあるものをそっと私に見せた。
「…綺麗!!」
それはキラキラと輝く星のようなもの。
マイセンはそれを一つ手にとると、私の口の中に押し込んだ。
「…金平糖?」
「そ、うまいだろ?」
しかも金平糖っぽいのにほんのりと私の好きな味がした。
「いちごの味がするわ」
「お前の機嫌が直るようにって願いをこめてみた」
「私はもう子どもじゃないんだから」
マイセンマイセンと慕っていたころの私はもういない。
兄に守られてばかりの妹はいないんだから。
私が睨みつけるとマイセンは少しだけ寂しそうに笑った。
「…知ってるよ、もう子どもじゃないってことなんて」
そしてきらきら輝く金平糖が入った小さな瓶を私に握らせると、私の頭をぽんぽんと撫でて私から離れた。
「…ありがとう」
「おう」
渡された瓶を両手でそっと握る。
相手を理解するのには、血が繋がってるかどうかじゃないのだ。
血の繋がりなんてただの事実のうちの一つだ。
私はマイセンのことを全く知らない。
兄がここでどんな学生時代を送ったのか、
どうして放浪の旅をしているのか、
どうして私から離れたのか…
私は知らないし、知りたくもない。
「お兄ちゃん」
小さく言葉にしてみたが、多分マイセンには届かない。
兄の背中を見て、なぜだか無性に寂しくなった。