最後のピース(愛市)

休みの日。
愛時さんのところへ向かっている時のことだった。
愛時さんからメールが届き、『悪いんだが、これを買ってきて欲しい』というリストが届いた。
私はそれに了解です、と返して頼まれたものを買いに近くのお店に入った。
そこで会計に並んでいるときにふと良いものを見つけた。

 

 

 

「こんにちは」

「ああ、悪かったな。買い物頼んで」

「いいえ、大丈夫です」

頼まれたものが入った買い物袋を手渡し、私は自分の鞄やコートを定位置へと置く。
愛時さんは買ってきたばかりの電球を切れてしまっていた部屋の電球と早速交換していた。

「愛時さんもコーヒー飲みますか?」

「そうだな、頼む」

「はい」

愛時さんのデスクから飲みかけのカップを下げ、新しくコーヒーを淹れなおす。

「冷蔵庫にプリンあるぞ」

「え!?本当ですか!」

「ああ、さっき依頼人からお土産に頂いたんだ」

冷蔵庫を開けると確かにプリンが入っていた。
しかも、それは駅前に最近出来たばかりで1時間以上並ばないと買えないというお店のプリンだ。
私はいそいそとプリンを二つ取り出し、トレイに置く。
それからコーヒーを丁寧に淹れて、愛時さんのところへもっていった。

「お待たせしました」

「来たばっかりなのにやらせて悪いな」

「いいえ、これくらいなんてことないです」

ソファに座っている愛時さんの隣に迷いなく座る。
そんな私を見て、愛時さんはちょっとだけ嬉しそうに笑った。

「どうかしました?」

「いや、可愛らしいなと思っただけだ」

「…だって隣が良いじゃないですか」

「ああ、そうだな」

愛時さんの隣は落ち着く。
出来ることならいつでもぬくもりを感じられる距離でいたいのだ。
そんな乙女心を分かっているのかいないのか、愛時さんは私の頭をぽんぽんと撫でてからコーヒーを一口飲んだ。

「うまい」

「愛時さんの好み、分かってきたので」

そう得意げに微笑んで見せると、愛時さんは私から視線を逸らした。
耳が赤くなっていることに気付き、私は嬉しい気持ちでプリンに手を伸ばした。

「愛時さん、このプリンなかなか買えないものなんですよ?」

「そうなのか、榎本がいたら喜んでたな」

「まだ後2個ありましたよ?」

「賞味期限が切れる前に遊びに来たら出してやるよ」

プリンをスプーンですくって口へ運ぶ。
口の中に入れた瞬間、とろりととけて消えるような優しい口当たり。

「っ!愛時さん!すっごく美味しいです!!これ!!!」

ちょうど今、食べ始めようとした愛時さんの方をくるっと向き、私は訴える。

「…残り2個持って帰って食べるか?」

「…頂いて帰ります」

ごめんなさい。榎本さん。
ちょっとだけ申し訳ない気持ちになりながらも、きっと香月も喜ぶだろうし、明日の楽しみが出来て私はちょっと…いや、大分嬉しい。
それから二人でプリンを平らげ、コーヒーを飲みながらまったりしていると、ふと、さっきのお店でレジに並んでいるときに見つけたそれの存在を思い出した。
私は鞄のところへ行き、それを持って愛時さんのところへ戻った。

「そういえばさっき寄ったお店で半額になっていたので、買ってきちゃいました!」

じゃん!と見せたのは1000ピースのパズルだ。

「完成すると、2匹の子猫です」

「…これはまた難しそうなのを買ってきたな」

愛時さんは受け取ると、苦笑いを浮かべた。

「パズル、苦手だって前に言ってたじゃないですか。
だからこれを二人で少しずつやっていったら楽しいかなーって!」

榎本さんや笹塚さんも今はもういないのだ。
たまに遊びに来るとしても、以前のようにいつの間にかパズルを完成されてしまうという事はないだろう。

「私がいない時にやってもいいですけど、一人で完成させないでくださいね?」

愛時さんは包装を破き、箱を開けた。
そこから適当に一つ手に取ると、私の手のひらに乗せた。

「じゃあこれはお前が持ってればいい。
そうすれば完成なんて出来ないだろ?
…まぁ、お前が心配しなくても俺一人で完成するとは思えないから手伝ってくれると助かる」

「ふふ、分かりました。じゃあ、これは大事に持ってますね」

渡されたパズルのピースをぎゅっと握る。

「あとさっきのプリンなんだが、持ってきたのは年配の男性だ。
家族へのお土産のついでだと言っていたぞ」

愛時さんはなんてことないみたいにそう言うと、パズルのピースを箱にいくつかザァーっと出した。
そこから角になりそうなものを探し始める彼の指を見つめながら私は口を開いた。

「…なんで私がヤキモチ妬いたの分かったんですか?」

並んでまでプリンを買ってきてくれた人がもしかしたら女の人で、もしかしたら愛時さんに好意を抱いているかも…なんて事をちらりと考えてはいたが、まさか気付かれるだなんて。

「おまえの彼氏だからな」

そう言って笑った愛時さんがとってもかっこよくて私は何も言わずに思い切り抱きついた。

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