二人で叶える願い事(ティファラン)

季節はめぐる。
私がニルヴァーナにやってきてもう一年が過ぎた。
あの季節がやってくる。

そう、サマルナの季節だ。

 

 

ルナリアの花を摘んでティファレトのお店へ届ける。
そして少しだけ彼と二人だけの時間を過ごして門限までには寮へ帰る。
そんな日々を相変わらず過ごしている。

「ティファレトってさ、丸くなった…と思いきやそんな事ないよね」

「え?」

ユリアナがお気に入りのマグカップにカモミールティーを注ぐ。
私の分も淹れてくれて、それを受け取って一口飲んだところでそんな事を言われた。

「あんたと付き合うようになる前は来るもの拒まず去るもの追わず…
誰とも深く付き合おうとしない、なんていうかふらふらーっとしてる不思議な魅力のある人みたいな印象だったけど。
あんたと付き合うようになったの見ると、大事なものを腕の中に収めておきたいというか。
そんな感じするなー」

「…はは」

なんと答えていいのか分からず、私は苦笑いを浮かべた。
確かにティアファレトは毎晩のように私と離れたくないと甘く囁く。
何度も落ちてくる唇と、愛の言葉を受け止めていくうちに私はいつか蜂蜜みたいに溶けてしまうんじゃないかとさえ思う。

「でも、あんたが幸せそうに笑うから良かった」

「…ありがとう」

魔剣が消えて、私は普通の女の子に戻った。
ヴィルヘルムが『女が泣いてると可哀相だから』と言って最期の力を使って守ってくれた私の居場所。
今の幸福があるのはヴィルヘルムのおかげだと思うから、私は泣いてはいられないと思ったから。
幸せそうに笑うことが出来るようになったのは、ヴィルヘルムやユリアナ…ニルヴァーナで関わった皆や…
ティファレトのおかげだ。

 

 

 

「ティファレト」

サマルナの日。
私は少し早めにティファレトのお店を訪れた。

「ああ、もう来てくれたんだ」

「うん。ルナリアの花の紅茶、飲みたくなっちゃった」

茶葉は持っているものの、やっぱりティファレトと飲むのが一番美味しく感じられる。

「どうぞ、座って」

「うん、ありがとう」

お湯を沸かし、紅茶を淹れてくれる所作全てを見つめているとティファレトはくすりと笑った。

「君は僕のことが大好きなんだね」

「え!?」

「違うの?」

「…そんな事はないけど」

「好きじゃないんだ」

分かっているくせにティファレトはわざとらしく肩を落としてみせる。

「…好きよ、ティファレトのことが」

「うん、僕も君が大好きだよ」

ティファレトは満足そうに微笑んだ。

「ティファレトの指って綺麗だなぁって思ったの」

「そうかな?君が気に入ってくれて何よりだけど」

男の人に綺麗だという言葉は褒め言葉ではないのかもしれない。
だけど、ティファレトって綺麗だと思う事が何度もある。
それは何気ない時の横顔だったり、嬉しそうに微笑んでくれたときだったり。
綺麗な人…と思う気持ちと、ただただこの人が愛おしいとも強く思った

「ラン」

綺麗だと褒めたその指が私の唇をなぞった。

「僕は君の全てが愛おしいよ」

月の色をした瞳が、私を捉えた。

 

 

 

 

早めにティファレトのお店に行ったにも関わらず、結局町へ出たのは日がすっかり落ちた頃だった。

「ティファレト、あっちも見よう」

「そんなに急がなくても何も逃げないよ」

繋いだ手がきゅっと握られて私は少し恥ずかしくなる。

「子どもみたいって思った?」

「ううん。はしゃぐ君はとっても可愛いよ」

「…そういうことじゃなくて」

火照る頬を誤魔化したくてそっぽを向くが、ティファレトが微笑んでるのは見なくても分かった。

「あ!」

そっぽ向いた先に、素敵なアクセサリー屋さんを見つけた。

「ティファレト、いい?」

「うん、いいよ」

私は彼の手を引いて、そのお店を覗く。
どれもこれも硝子細工で作られたパーツが綺麗なアクセサリーだ。

「わあ…綺麗」

手にとって灯にかざしてみるとどれも凄く綺麗だった。
いくつか手にとって見せてもらったが、結局私は何も買わないでそのお店から離れた。

「良かったの?あんなに目を輝かせてみていたのに」

「うん。いいの」

「君はやっぱり無欲なのかな」

「…だって私にはこれがあるから」

そう言って以前、ティファレトが作ってくれた指輪を見せる。
この輝きが私には一番似合っているから…
たまにああやって見たりはするが、結局これが一番だと思って何も買えないのだ。

「君の躯に触れていいのは僕だけだからね」

「…もう」

ティファレトはそんな事を嬉しそうに言った。

 

 

そうしてランタンをあげる場所へ移動をし、ティファレトはいくつかのランタンを手にしていた。

「願い事、今年は見つかった?」

「私は…うん。でも、これは自分で叶えるからいいの」

手にしたランタンには何も願いを込めない。
手から離すと、それは緩やかに上昇していき、あっという間に他のランタンたちにまぎれてしまった。

「私の願い事はあなたとずーっと一緒にいることだから」

「…ラン」

両手に持っていたランタンを手放し、彼は私をきつく抱き締めた。

「その願い、僕が叶えてみせるから」

「…うん。二人で叶えていこうね」

誰かと寄り添うことは、多分一人では叶わないから。
ティファレトのランタンも他のランタンにまぎれてしまってもう分からない。
でもきっと、私のあげたランタンの傍にいるのかも。
そんな事を思いながら私は彼を抱き締め返した。

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