願いを叶えてくれた人(ラスラン)

季節はめぐる。
私がニルヴァーナにやってきてもう一年が過ぎた。
あの季節がやってくる。

そう、サマルナの季節だ。

 

「今年もユアンさん来るの?」

「え?」

「ほら、もうすぐサマルナだから」

夜、ユリアナとお茶をしていると話題はもうすぐ行われるサマルナについてに変わった。

「そういうランはラスティンとでしょ?」

「…う、うん」

未だにラスティンとのことを人に言われるのは慣れなくて恥ずかしい。
ラスティンは私のことを周囲の人に言われるのが嬉しいと以前話していた。

「ユアンさんって独占欲、強い?」

「え?ユアン?うーん、どうだろう。ヤキモチ妬いたりっていうのはもう記憶にないなぁ」

随分長く付き合っているから、そういう期間ももう終わったのだとユリアナは笑う。
そういうもんなんだろうか。

「ラスティンは…あー、なんかなんとなく分かる。意外と独占欲強そう」

「…そう見える?」

「うん、見える」

そう言ってユリアナは笑った。
ラスティン自身、独占欲が強いと私に言い聞かせるけどそういう事で機嫌が悪くなったり…といったような姿を見たことがない。
大人なんだなぁ…と私はラスティンのことをひっそりと思っていた。

 

村にいた頃。
男の子と関わることもほとんどなかった私にとって、ラスティンは初恋の人だ。
恋というものは本に出てくるようなキラキラしたような、それでいて苦しかったり悲しかったり…
舐めていると味がころころと変わる飴のようなものだと思った事がある。
無縁だと思っていた恋を、私はラスティンにしているのだ。

 

 

「そこのかーのじょ」

回廊を歩いていると、ぽんぽんと肩を叩かれる。
振り返らなくても誰かは分かっている。

「ラスティン」

「今日の授業はもう終わり?」

「うん。ラスティンは?」

「実は俺もなんです。なので、一緒にお茶でもしませんか?」

そう言ってラスティンは軽くウィンクをする。
本当は素振りでもしようかと思っていたけれど、ラスティンのその言葉に私は小さく笑った。

「うん、したいな」

ラスティンのエスコートに私は大人しく従った。
二人で町へ行くと、ジェラードのお店へ向かった。
お茶と言いながらなぜかジェラードを食べているんだけど、私を喜ばせようと思ってくれているのは分かった。

「美味しい?」

「うん、とっても!」

ジェラードをすくって口へ運ぶと、さわやかな甘さが口の中に広がる。
レモン味は私のお気に入りだ。

「本当、あんたって美味しそうに食べるからいいよな」

「…! あんまり見られてると、恥ずかしい…です」

以前にも何度か言われたことがあるが、ラスティンは私が何かを美味しそうに食べる姿が好きらしい。
口を開けて、頬張る姿を好きな人に見られているというのはやはり恥ずかしい。

「そうやって照れるランも、いつまでも初々しくて好きだけどね」

そう笑ってラスティンは口を開けた。

「あーん」

「…もう」

私はラスティンの口へ、お気に入りのレモン味のジェラードを運んだ。

 

 

 

 

サマルナの夜。
ラスティンとの待ち合わせの場所へと急ぐ。
制服の中で揺れるラスティンから貰った私の瞳と同じ色の宝石がついたペンダントが揺れる。

「ラスティン!」

待ち合わせの15分前なのにラスティンはやっぱりいて…

「たまには私に待たせてくれたっていいのに」

いつも待ち合わせより早く行ってもラスティンは私より先にいる。

「だーめ。これは俺の特権」

そんな事を言って、ラスティンは笑った。

「お手をどうぞ、愛おしい人」

私の王子様はそんな風に優しく微笑んで私の手を差し出した。

 

二人で屋台を見て回っていると、やたらとラスティンの知り合いに出会う。
暁の鷹のメンバーたちも含まれており、私の知っている顔もちらほらあったがそうでない人も多かった。

「ラスティンって顔広いよね」

「ヤキモチ?」

「ううん。そうじゃないけど」

「なーんだ、残念。たまには妬いちゃうランも見てみたかったな」

「…もう」

そう言いながらもラスティンが私を不安にするような要素を一切見せないようにしてくれている事を知っている。
それは彼の優しさだ。おかげで私はヤキモチというものをほぼ妬いた事はないんだけど、ラスティンのそういう気配りに内心ときめいている。

一通り屋台を堪能した後、私たちはランタンを見るために港へ向かった。

「わあ、凄く綺麗…!」

昨年も見たけれど、やはり何度見てもこの光景は素晴らしい。
空へ舞い上がっていくランタンを見つめて、私ははしゃいだ声を出す。

「そういえば、今年はやらなくていいの?」

「え?」

「去年もやらなかっただろう、やりたいんじゃないの?ランタン」

ランタンには願い事を込めるという。
去年、これを見た時に願いたいと思った事は…

「ううん、やらなくて大丈夫」

私が小さく首を振ると、ラスティンは「そう?」と言った。

「…もう願い事は叶ったから」

好きな人の隣にいつまでもいれますように。
私が願いたかったのはそれだから。

「それにラスティンがくれたペンダントが私の願い事みたいなものだし」

「え?」

「あ…」

服の上からペンダントを押さえる。
思わず出てしまった言葉にラスティンも驚く。

『このペンダントには実は呪いがかかっていて、あんたはもう俺から離れられない』

私の首にかけた後、ラスティンはそう言った。
嘘だと言っていたけど、このペンダントを貰った日。初めてキスをしたサマルナの夜。
あの瞬間に私の願い事は叶ったのだ。

「あんた、反則」

そう言ってラスティンは私の頭を引き寄せ、肩に押し付けた。

「…ラスティン」

周囲にはランタンを見上げる沢山の人がいる。
私たちのように寄り添うカップルや家族で見ている人だっている。
私は貴方のもの。
そして、貴方は私のもの。

「ラスティン、大好きよ」

普段は恥ずかしくてなかなか口に出来ないけど、私はようやく言葉にした。

「ああ、俺もあんたが好きだ。あんたの居場所は俺の隣だからな」

ラスティンが耳元で私にそう囁いた。
その言葉に私は小さく頷いた。
見上げるランタンは、昨年よりも輝いて見えた。

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