幸せというものは、目には見えないけども生活の中に潜んでいるものだ。
ふと、そんな事を考えたある日の朝。
「…あ」
目を覚ますと、隣ですやすやと寝息を立てているアリス君の顔が飛び込んできた。
触れてみたい気持ちになるが、きっと彼はちょっと触れるだけでも起きてしまうだろう。
それに昨夜はなんとか説得して、一緒に眠りについたのだ。
彼のあどけない寝顔に自然と頬が緩む。
「可愛いなぁ、アリス君」
眠り姫よろしくすやすやと眠る彼の表情は穏やかで、こんなに安心して彼の寝顔を見るのは初めてのことなんじゃないかとおもった。
金髪(今は目を閉じていて見えないけど)碧眼の男の子。
私の王子様。
「ふふっ」
これは、そう。幸せというものを描いたような朝だ。
私が嬉しさをこらえきれず両足をばたばたとさせると、穏やかな表情をしていた彼の眉間に皺がよった。
「おはよう、アリス君。起きた?」
「…ああ。僕はどこかの誰かと違って、寝顔をまじまじと見つめられた挙句に隣でバタ足の練習でもするんですか?と言わんばかりの勢いで足を動かされて眠っていられる程図太い神経をしていないものでね」
「私、これでも泳ぎはクロールばっちりだよ!」
「ああ、はいはい。ハイスペックな自慢は寝言としてなら聞いてやろう。ただし、僕も寝ているから聞こえないんだがな!!」
「アリス君は泳げなさそうだよね、なんか」
「そしてさりげなく僕をディスるな!!」
「それにしてもよく起きてすぐそんなに元気いっぱいだね」
「…君がそうさせてるんだろう。大体今何時だ」
アリス君は近くにある置時計で時間を確認すると、布団の中にもう一度潜っていってしまった。
「アリス君!もう6時だよ、朝の6時!!」
「……」
「ほら、見るからに外は良い天気!今日は絶好のピクニック日和だよ!」
カーテンはまだ開けていませんが、隙間から差し込む日差しが今日も良い天気だと訴えかけているのは分かります。
「ねえねえアリスくん」
名前を呼んでみても返事はない。
だから強めに彼の体を揺すってみるが、それでも反応なし。
「アリス君アリス君」
しばらく彼の体を揺すっている。
そうすると観念したのか、がばりとアリス君は起き上がった。
「アリ…」
「君は!!!夏休みのラジオ体操に親を巻き込む子どもか!!
第一こんな早く起きたってピクニック日和もあったもんじゃないだろう!」
そうまくしたてると、アリス君は私の腕を掴んで布団の中へと引きずり込みました。
「僕はまだ眠いんだ。夕べ、僕と寝たいがために全力で駄々をこねたどっかの誰かに追い掛け回された体が睡眠を要求しているんだ」
「ふふっ」
「…なんだ、その顔」
「ううん。なんか一緒の布団に潜るとか、子どもみたいで楽しいなって想っただけ」
「君の頭は常にお花畑だからな」
そう言って、アリス君は目を閉じてしまった。
ああ、どうやら本気で眠るつもりのようだ。
「ねえねえ、アリス君」
「……」
「御伽噺によると、眠り姫が目を覚ますのは愛する王子様からのキスなんだって」
「……」
「だからキスしてもいい?」
「誰が王子様で誰が眠り姫なんだ……」
「私が王子様で、アリス君が眠り姫かな、今の場合」
「はぁ~」
アリス君はわざとらしくため息をつくと、嫌そうに目を開いた。
そして、私を強く引き寄せて、彼の唇が私の額に触れた。
「王子様からの口付けによってお姫様は眠りにつきましたとさ。めでたしめでたし」
「え!?え!!めでたくないよ!アリス君!」
うっかりデコチューにときめいてしまって流されそうになるが、必死に抵抗してみる。
「起きたら、君の好きな紅茶を淹れよう。それでどうだ」
「…もう、しょうがないなぁ」
彼の腕のなか、私も目を閉じる。
「アリス君でもベタな事、するんだね」
私の首の下あたりにあるのは彼の腕。
普段散々私のことをゆるふわ恋愛脳というくせに、こういうベタな事はしてくれるんだから。
「たまには恋人らしいことをしてもいいだろう」
そう言った彼の頬が紅くなっていたのかどうか、布団にもぐりこんでいたせいで分からなかったけど。
私はただただどうしようもなく幸せを感じてしまった、そんな朝。