芸能人だって人間だ。
テレビや雑誌で見る顔が全てではない。
俺たちにもプライベートというものが存在するのだ。
「ねえねえ!ごうちんは変装とかしないの?」
「はあ?変装だぁ?」
ダンスレッスンが終わり、各々着替えていると阿修がそんな事を言い出した。
「アイドルたるもの、いつ誰に見られているか分からないんだから変装は必要だと思うぞ、剛士」
「お前と違って俺はやましいことねえっつーの」
「ふーん?つばさのことは?」
「別にやましくねえだろ」
俺たちのA&Rである澄空つばさと付き合うようになって早数ヶ月。
メンバーたちには、周知の事実となっているが職業が職業なだけにオープンな付き合いは難しい。
それを分かっているから、どこかへ出掛けたり…ということは出来ていない。
「つばさだって女の子なんだから、デートとかに憧れあると思うけどなー」
愛染が俺を煽るみたいにそんな言葉を吐いた。
俺は舌打ちをして、手に持っていた飲みかけのスポーツドリンクを飲み干した。
変装…変装と考えてもめがねとマスクくらいしか思い浮かばない。
よく週刊誌に隠し撮りされているヤツとかを見かけるが、そんな風にしてたってバレるだろうと呆れていたものだ。
それをいざ自分がすることを考えても全く想像できない。
「金城さん、お疲れ様です」
「おう」
支度を済ませ、更衣室を出るとつばさが立っていた。
「今日はこれで終わりですよね?」
「お前は?」
「私はこの後、社に戻って打合せが一本あります」
「そっか」
会話が途切れても、立ち去らない俺を不思議そうに小首をかしげて見つめてくる。
そういう動き一つ一つが可愛く感じてしまうのはなんなんだろうか。
火照る頬をごまかすように俺をつばさから顔をそむける。
「おまえさ」
「はい」
「眼鏡とか、どう思う?」
「金城さんがかけたら、普段と違う魅力があって、かっこいいと思います!!」
間髪いれず、そんな言葉が返ってきたもんだからそらしたばかりの顔をつばさの方へ向ける。
「そういう事を聞いてんじゃねーよ!」
こいつはいつだって俺を認めて、良いときは良いと褒めてくれる。
それがこそばゆくて、少し照れくさいのだが褒められて悪い気はしない。
「え?あ、間違えましたか!?でも、金城さんが眼鏡かけてる姿想像したらとってもかっこよかったです!」
そういう事を聞きたいんじゃないのに、たたみかけるように俺を喜ばせる言葉を続ける。
「ああ、もう…おまえは」
いちいち可愛いな…
その言葉はぐっと堪えて、つばさの腕を引き寄せてかすめるようにキスをした。
「-っ、か、かねしろさ」
「うるせぇ」
何も言うな、と言葉を続けてもう一度唇を塞いだ。
「おまえさ、どっか行きたいところとかねーの?」
「私は金城さん…いえ、剛士くんといられるならどこだっていいんです」
キスが終わり、聞きたかったことを尋ねればそんな無欲な言葉が返ってきた。
「はぁ、おまえってやつは」
変装する方法を考えて、あとはこいつが喜びそうな場所を…なんてガラにもない事を考えながらつばさの頭をぽんぽんとなでた。
何を考えてるのか分からないだろうが、つばさはそんな俺を見て、嬉しそうに笑った。