「き…北門さん!」
「ん?どうしたの、つばさ」
いつも通り笑みを浮かべた北門さんの表情。
だけど、その顔が至近距離に迫ってきている。
私は思わず一歩、一歩と後ずさっているんだけど私が逃げる度に北門さんが近づく。
逃げ場はもうない、というところに来て私は堪えきれなくなった声をあげた。
「どうしたじゃないです、誰かに見られたら…」
「ここは俺たちの部屋だし、竜持も今はいない。だから安心して」
北門さんとお付き合いするように変わった事といえば、彼の少し強引な姿を見るようになったこと。
アイドルとA&Rだけの関係のとき、彼はひたすら優しくて、アイドルなのに私のことを酷く気遣ってくれた。
それは今も変わらないんだけど。
「つばさ」
私の名前を愛おしそうに囁くと、耳朶にキスを落とす。
それから頬、額、鼻…といたるところにキスをしていくが肝心の場所にはいつまで経っても与えてくれない。
「北門さん」
「なに?つばさ」
そして、付き合うようになってから北門さんは少し意地悪になった。
唇にキスを自分から絶対してくれないのだ。
私がしてほしいとねだるのが嬉しいそうで、絶対してくれない。
「…意地悪です」
「うん。つばさが可愛いからついつい意地悪しちゃうんだ」
そう笑って、また額にキスをする。
「きたかどさん」
キスしてほしいなんて恥ずかしくて言葉に出来ない。
熱の籠もった瞳で彼に訴えるが、にっこり微笑まれるだけだ。こんなに意地悪されてるのに、嫌だといえないのは…それだけ私が北門さんを好きだということ。
「…あんまり意地悪しないでください」
そう言って目の前にいる彼に勢いよく抱きついてみると、驚いたのかいつもより少し抱き締めるのが遅かった。
「つばさが可愛いから、いけないんだよ」
彼の手が私の顎を持ち上げて、唇が重なるギリギリのところまで顔を近づけられる。
「つばさの口から聞きたいな」
もう限界だ。
こんなに近くに好きな人がいるなんて、クラクラする。
「…キス、してください」
恥ずかしさを懸命にこらえて、私は彼が求める言葉を口にした。
「姫の仰せのままに」
北門さんは幸福だといわんばかりに目を細めて笑い、優しくない大人のキスをくれた。