夏はいつだって熱い。
じりじりとした日差しのおかげで汗が止まらない。
「はーい!!一旦休憩はいりまーす!」
今日はとある番組のロケ。
15分ぐらいの尺だけど、毎週Bプロメンバー数人が出演させてもらえるありがたい枠だ。
今日は阿修くんと是国さんの二人のロケだ。
二人といえばスイーツ…と周囲の人間も思っているのだろう。
そのおかげで今日はアイスクリーム特集だ。
何軒かのお店へ行き、二人が新作アイスを食べる。
美味しそうに食べる二人を見てると、こっちまで幸せな気持ちになる。
「つばさ、生きてる?」
是国さんが私の傍に来ると、ぐっと顔を近づけてきた。
是国さんは女の子と見間違えるくらい可愛い顔立ちをしていて、睫なんかも私よりも長いし目もぱっちりだし…
顔を近づけられるのは心臓に悪い。
「だ、大丈夫です!」
慌てて一歩後ずさると、体から力が抜けた。
まずい、倒れる…!と思った時、誰かに抱きとめられた。
「つばさちゃん、大丈夫?」
「あ、阿修くん…!」
振り返ると、阿修くんが私を抱きとめていてくれた。
「すいません、ありがとうございます!」
離れようとするが、阿修くんは私の肩と腰を掴んだまま離してくれない。
「阿修くん、その…もう大丈夫なので」
「ううん。離さない」
にっこりと笑う阿修くんが、なにやら怒っている気配を感じる。
助けを求めるように正面にいた是国さんを見つめるが、目をそらされる。
「阿修くん…!私、汗いっぱいかいてるし!その!」
「はいはい、つばさちゃんこっち」
体から手は離れたが、代わりに手をひかれて二人の移動車へと連れて行かれる。
外からは覗けないようにスモークガラスにカーテンをしている車内。
今は休憩中だし、運転手さんもいない。
あれよあれよという間に奥へと追いやられ、後部座席まで移動させられる。
「はい、どうぞ。つばさちゃん」
「え?」
阿修くんはにっこり笑うと、自分の膝の上をぽんぽんと叩く。
「え?じゃなくて、膝枕」
「えーと…どうしてですか?」
「つばさちゃん、ふらついてたでしょ。ちょっと休んだ方がいいよ」
戸惑っていると、再び手をつかまれそのままされるがまま、阿修くんの膝の上に頭を乗せた。
「つばさちゃんはいい子いい子」
そういいながら私の頭を優しく撫でてくれる。
さっきも思ったけど、阿修くんは無邪気な明るい子…というイメージが強かったけど私を支えてくれたときの力強さやこうして撫でてくれる手の大きさとか。
ああ、男の人なんだと急に自覚させられる。
「あれ、つばさちゃん顔赤い」
「え!?いや、熱くて…!」
「ふーん?」
ぱたぱたと手で自分の顔を仰ぐも、阿修くんの視線に耐え切れずに顔を逸らす。
なんでこんな状況になっているんだろう、恥ずかしい。
「もしかしてつばさちゃん、ドキドキしてたりしてー」
「~っ!!」
図星をつかれて、私は言葉を失う。
そう…今すごくドキドキしている。
歌をうたったり、演技をしたり…そんな皆さんを見ていて胸がときめく事は何度も何度もあった。
けど、このドキドキは…
「もうすぐ休憩終わっちゃうけど、いい子にして俺たちのこと見ていてね」
阿修くんはそう笑うと、私の前髪をそっとよけて、キスを落とした。
「あ、阿修くん…!?」
「ねえ、つばさちゃん。
俺も今、すっごいドキドキしてる」
私の手をとると、自分の胸へと持っていく。
ドクンドクンと彼の鼓動が伝わる。
「なんでだろうね?」
「そ、それは」
ある日少年は、大人の男の人になるって聞いたことがある。
今まで可愛い可愛いと思っていた人が、急に…
「つばさー!悠太ー!そろそろ出てこないと収録再開だってー!」
「はーい!今行くー!」
是国さんの声が聞こえると、阿修くんが元気いっぱいに返事をする。
私は起き上がり、阿修くんが先に下りようと動く。
「つばさちゃんはもう少ししてから来たほうがいいよ」
「え?」
「顔、真っ赤」
私のほっぺたをつんつんとつつくと、阿修くんはいつも通りの笑顔を浮かべた。
阿修くんが降りた後、私は手鏡で自分の顔を確認した。
いわれたとおり、顔が真っ赤だった。
(…阿修くんに、こんな風にドキドキするなんて)
火照りはその後もなかなかひいてくれなかった。