XOXOの撮影で、ハロウィンの仮装をすることになった。
初め、その撮影の内容を聞いた時とってもわくわくした。
「えーと、愛染さんがミイラ男手、阿修くんがかぼちゃ…?
で、金城さんは…!?」
金城さんは狼男だった。
狼ということは…獣耳をつけるということだ。
私が担当になったばかりのXOXOの撮影で猫耳をつけろという指示に激怒した金城さんが頭の中で蘇った。
(まずい…まずいんじゃ、これ!)
「あ、これが今日の衣装?うわー!見てみて、ごうちん!ごうちん狼男だって!」
頭を抱えていた私の横を通り過ぎて、阿修くんはその衣装を見つけて金城さんを呼んだ。
「はぁ?狼?」
「ほら、耳ある」
「やったじゃん、剛士」
「うるせえ。そういうお前らはなんなんだよ」
私の杞憂なんてそっちのけで、三人で衣装を確認し、笑い合っていた。
その姿を見て、私は一人胸をなでおろした。
そして、準備が終わると撮影が始まった。
それぞれの衣装に着替え、ハロウィンのセットに移動した三人を見て、私は頬が緩んだ。
Bプロの中でもTHRIVEはクールというか、かっこいい路線がとても似合うし、そういう撮影が多い。(昔のにゃんにゃんポーズ事件はさておき)
だけど、そんな彼らも今回ばかりはとても可愛かった。
「金城くん笑ってー」
カメラマンさんの指示に、以前なら機嫌を損ねた金城さんが今は笑っている。
金城さんは随分丸くなった気がする。
ストイックな部分はそのままといえば、そのままだけど、まとう空気も少し柔らかくなった気がする。
「はーい、一旦休憩でーす」
スタッフさんの声がかかり、私は三人に飲み物を手渡す。
「お疲れ様です」
「さんきゅ、つばさ」
「ありがとー!つばさちゃん」
「ん、サンキュ」
愛染さん、阿修くん、金城さんの順番で手渡すとそれぞれ飲み始める。
金城さんの耳と尻尾に目がいってしまうのは仕方がない…と思う。
私の視線に気付いたのか、金城さんと目が合う。
「なんだよ、そんなに見て」
「あ、いえ…!」
「ごうちん可愛いよねー!」
「うるせえ、阿修」
阿修くんの言葉を一蹴し、金城さんはスタジオから出て行こうと歩き出した。
「剛士、どこ行くんだ?」
「トイレだ!」
愛染さんの言葉に言い返すと、金城さんはそのままの格好で出て行った。
「…剛士、意外と気に入ってるんじゃない?あれ」
「はっ!金城さん!!」
耳と尻尾をつけたまま出歩くなんて勇気のいることを…!
私は慌てて金城さんの後を追ってスタジオを飛び出した。
「金城さん!!」
尻尾を揺らしながら歩く金城さんをなんとか捕まえる。
人通りは全くなくて、私はほっとして息を吐いた。
「ん?どうした、澄空」
「その…耳と尻尾がついたままだったので、外してからお手洗いに行った方がいいかなって」
「-っ!」
金城さんは忘れていたらしく、私の言葉に慌てて頭の上の耳に触れた。
「ったく…ハロウィンなんて、日本に関係ないだろうが」
「でも!ハロウィン特集のおかげでこんな可愛い金城さんが見られたので私は凄く素敵だと思います!!」
恥ずかしさを誤魔化すように吐き捨てるようにハロウィンへの不満をいう金城さんに食い気味に伝える。
心なしか頬が赤くなった金城さんが私をじっと見つめる。
「俺が可愛い…だって?」
「はい!狼の耳と尻尾がとってもよく似合っていて…」
言葉を続けようとしたその時-
気付けば私の背中は壁に押し付けられ、金城さんとの距離があと数センチ…いわゆる壁ドンと言われる格好になっていた。
「え!?金城さん?」
「狼に可愛いなんて言って、覚悟できてんのか?」
至近距離で見つめられた事なんてなくて、金城さんの視線にドギマギしている自分がいた。
「澄空」
金城さんが私の耳に唇を寄せて、こう囁いた。
「Trick or Treat」
さすが金城さん。発音が良いなと場違いな事がまず頭に浮かんだ。
だけど、その後にすぐ恥ずかしさで逃げ出したくなった。普段も綺麗な人だと思っていたけれど、こんなに近くでこんな風に囁かれたらもう駄目だ。
膝の力が抜けて崩れ落ちそうになると金城さんの手が私を抱きとめた。
「澄空…っ、」
「あ、すいません…!」
慌てて顔を上げるとキスが出来そうな距離だということに気付いてしまった。
「~っ!」
私はポケットからのど飴を取り出し、金城さんの口の中に無理矢理押し込んだ。
「んっ!!!」
「お、お菓子です!!」
私は金城さんの腕からなんとか抜け出し、スタジオまで走っていった。
「…のど飴って、お菓子か…?」
金城さんのぼやきは、私の耳には届かなかった。
「おかえりー!ってあれ?つばさちゃん、ごうちんは?」
「え!?あ、金城さんはお手洗いに行くって」
阿修くんは私の手を確認して、首をかしげる。
「耳と尻尾は?」
「あっ!!」
それを止める為に追いかけていったのに。
火照った頬を両手で押さえる。
「…ハロウィンって凄いですね」
「へ?」
さっきの金城さんの声や視線を思い出してしまい、また顔が熱くなった。
そんな私を見て、何にも知らない阿修くんがさらに首をかしげた。