「ねえねえリーダー!!俺らもハロウィンやろうよ!!」
そんな事を暉が言い出したのはTHRIVEが雑誌の取材でハロウィンの仮装をしたという話を聞いたからだ。
生憎俺たちにはそんな企画ものの予定はないから、プライベートでやりたいという事だ。
「うーん、そうだね」
たまにはそんな事するのも悪くないだろう。
「わーい!やったあ!たつ!たつは何の仮装する!?」
「落ち着け、暉。ソファの上で跳ねるなといつも言っているだろう」
「ももたす!ももたすはまみりんのコスプレですよね!?」
「みか…それは仮装じゃない」
思い思いに喜ぶメンバーを見て、受け入れてよかったと笑う。
それから数日経ち、仕事が早く終わる日にMooNsでハロウィンパーティーをする事になった。
準備していた衣装に着替えてると、チャイムが鳴った。
「あれ、誰か来たのかな」
「そうそう!つばさちゃんに声かけておいたんだー!」
「え!?澄空さんが!?」
耳を装着したところだった。
何の耳かというと、これは…その狼だ。
「はいはーい!今あっけまーす!」
「ちょ、待って!暉!」
暉が玄関に駆け出していくのを静止しようとするが遅かった。
「こんばんは、皆さん」
「澄空さん…!」
「わぁ!増長さん!可愛いですね!!」
俺の姿を見て、澄空さんは両手を合わせてはしゃいだ声を出す。
「可愛いって…」
「それは…わんちゃん?の格好ですよね!」
「いや、これは…」
「つばさちゃん!見てみて!俺はねー!じゃーん!!ドラキュラ!!」
「暉くん似合ってます!かっこいいですね!」
「へへーん!やっぱり?ほら、牙とかもちゃんとあるんだよー!」
暉があっという間に澄空さんをかっさらっていく。
その無邪気さに澄空さんも笑顔を絶やさない。
それから他のみんなの仮装を見て、褒めちぎっていく。
ハロウィンパーティーということで、ももと帝人がメインになって用意してくれた料理を一緒に食べる。
「つばさちゃんも仮装すればいいのに」
「私は皆さんみたいに似合いませんよ~」
「そんな事ないです!つばささんには魔女っこまみりんの!」
「みか、落ち着け」
みんなでわいわいやるのも好きだし、楽しい。
だけど、そわそわしている自分がいる。
(彼女にこんな格好してるのを見られるなんて考えていなかった…どうしよう)
わんちゃんと言われてしまったが、俺の仮装は狼男だ。
それに気付いてもらえないくらい…俺は格好いいとは思われていないんだと思うと少し胸が痛んだ。
「お茶でも淹れてくるね」
テーブルの上の飲み物が切れそうになったのを見つけ、俺は席を立った。
「私も手伝います!」
「大丈夫だよ、澄空さん」
「手伝わせてください」
「…それじゃあお願いしようかな」
二人でキッチンへ移動すると、ヤカンに水を入れて沸騰を待つ。
「今日、誘っていただけて凄く嬉しかったです。ありがとうございます」
「楽しんでくれたなら良かった」
「なんだか貴重な増長さんも見られて、ラッキーです。私」
「そうかな」
「普段、かっこいい増長さんを見てる分…今日の増長さんは可愛らしいですし」
「-っ!」
普段かっこいいと思われていたなんて初耳だ。
動揺を悟られまいと首筋を撫でる。
「澄空さんには、これ…何の仮装に見えてるのかな」
「わんちゃんですよね!尻尾と耳が可愛いです!」
今日はハロウィンパーティーだ。
少しだけ、少しだけ…
「澄空さん、トリックオアトリート」
澄空さんとの距離を詰める。
「え!?あ、今お菓子持ってなくて」
「トリックオアトリートの意味、分かってる?」
もう数センチという距離まで近づくと、澄空さんの頬が紅くなった。
耳元へ唇を寄せ、
「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞってこと」
「~っ!ま、増長さん!」
耳朶にちゅっ、と音を立ててキスをすると、彼女の愛らしいポニーテルが跳ねた。
「ひゃっ…!」
彼女の口から漏れた可愛らしい声にもっと触れてみたくなる衝動にかられる。
ダメだ、悪戯の範疇を越えちゃダメだ。
少しだけだから、悪戯なんだから
「増長さんってば!!」
「だって澄空さんがお菓子くれないから。ごめんね?びっくりした?」
「もう…ドキドキさせないでください」
ぽろりと出たその言葉に俺がドキドキする番だった。
ちょうどい良いタイミングで、ヤカンが沸いたことを告げた。
「おかえりー!二人とも!」
「あれれ?なんだか二人とも顔赤いですよ、何かありましたか?」
「え!?な、何もないですよ!ねえ、増長さん!」
「うん、そうだね」
からかうメンバーたちの元に戻り、パーティーを再開する。
いつか、もっと…もう少し長く彼女に触れられるように。
ハロウィンパーティーに感謝しながら、僕はさっきの澄空さんを思い出す。
今夜は、眠れないかもしれない。