どうしたらいいんだっけ?(ヴィルラン)

夜、ユリアナとの楽しいお茶の時間。
気分を変えて、今日は紅茶にレモンのスライスを落とす。

「あ、レモン良い香りー!私も入れようかな!」

「ユリアナ、なんだかご機嫌ね」

今日のユリアナはいつもより笑顔が多くて、すぐ分かる。
それが彼女の可愛いところだと私は思ってる。

「あのね、ユアンから手紙が届いたの!」

手紙には今度の休みにニルヴァーナへ行くというものだったという。
普段、遠距離恋愛をしている彼女はユアンから連絡が来ると凄い勢いで舞い上がる。
付き合って長い二人が、いつまでもそういう風に喜べるなんてうらやましい。

「それで、今回のお休みって3連休でしょう?
私は外泊届け出すからいないんだけど」

「そう、楽しんできてね」

紅茶に口をつけるとレモンの爽やかな香りにほっとしてしまう。

「ランはヴィルヘルムと外泊とか・・・しないの?」

「うーん・・・私たちは、ないかなぁ」

ヴィルヘルムがそんな事を言うはずないし、私もどこか行きたいところがあるわけじゃないし。
お茶をこくりと飲む私を見て、ユリアナがテーブルをばん!と叩いた。
その音に思わず驚き、目を見開いてしまう。

「だって二人は付き合ってるんでしょう!?
確かに毎日顔見てるけど、それだけで足りるの?」

「・・・いや、その」

「足りるの?」

「・・・足りない、です」

ユリアナの勢いにおされて、私はついつい本音を漏らした。
そう・・・全然足りない。
毎日会えても、二人きりでいられる時間も僅かだし休みの日は夜になればお別れ。
もっと一緒にいたい。
だけど、彼はそうじゃないから今に不満がないんだろう。
独りよがりの想いは嫌。

「それじゃあ、やっぱり一緒にいなきゃ!
折角の3連休だよ?一晩くらい二人で過ごしなよ!」

「でも、ヴィルヘルムはそう思ってないから・・・」

「うーん・・・」

ユリアナは考え込むように腕組みをして、目を閉じた。

「ランはそういう気持ちをヴィルヘルムに伝えてないんでしょう?」

こくりと頷く。

「好き合ってるから、全部自分の気持ちは伝わってる・・・なんてことはないんだよ?
伝える努力も汲み取る努力もしないと、好きでも苦しくなるだけなんだよ」

ユリアナの顔を見ると、まるで母親が子供をあやすような優しい表情をしていた。

「ユリアナと彼も、そうだったの?」

「そりゃーもちろん!だって違う人間だもん、伝えないと伝わらないの!」

その言葉にとても安心して、思わず涙腺が緩む。
ああ、私は不安だったんだ。
ヴィルヘルムは私と一緒にいたいとは思ってくれない。
私だけが一緒にいたいって。
世の中の恋人たちはお互い分かり合っていて幸せそうに見えて。
私は一人、取り残されたみたいな気持ちになっていた。

私が求めれば応えてくれる。
それって恋人なのか、分からなくて。

「ヴィルヘルムは・・・私に優しくしてくれるし、私が願えば返してくれる。
でも、彼が私を必要としてるかは・・・」

「よしよし」

優しく頭を撫でてくれるユリアナ。
それが余計嬉しくて、涙はぽろぽろと零れ落ちる。

「私から見たらヴィルヘルムはランの事、すっごく好きに見えるけどそれは他人の目からだからね
ランを不安にさせるのは良くないね」

「・・・でも、こないだも買い物付き合ってくれたり、私にプレゼントしてくれたり、
そういう優しいところあるの」

私の身の回りのものが紅く色づいていくのは彼の影響。
それに気付いてから少し恥ずかしいけど、彼が傍にいてくれるみたいだからつい選んでしまう。

「ちゃんと話してみな?
ヴィルヘルムはきっとランの気持ちに応えてくれるよ。
ランの独りよがりなんかじゃないから」

「うん・・・ありがと」

「・・・紅茶、淹れ直すね」

すっかり冷えてしまったカップを手にし、ユリアナは新しい紅茶を用意してくれた。
ユリアナの優しさのように、それは暖かくて美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらない朝。
食堂に行けば、ランがいた。

「よう、ラン」

「おはよう、ヴィルヘルム」

なんだろう、今日のランはいつもより気合が入っているように見える。

「なんかあったのか?」

「え?何もないよ」

「そう・・・か?」

なんだか腑に落ちないが、朝食を口に運ぶ。
ランの隣にいたユリアナをちらりと見るが、にやりと笑われるだけでよく分からない。
ユリアナは用事があると言って先に食堂から出て行った。
後に食べ始めた俺とほぼ同時に食事を終えたランと食堂を後にする。

「あのね、ヴィルヘルム」

「んー?」

確か座学からだったよな、と憂鬱な俺を意を決したような瞳で見上げてくる。

「次の週末、3連休じゃない?」

「あー、そうだな」

そういえばそんな事言ってたな。
身体鈍りそうだよなぁ・・・なんて思ったのを思い出した。

「それで・・・その・・・」

「うん」

「・・・二人で、どこか泊まりにいかない?」

「おお、いいよ」

そういえば外泊なんてした事ないな、ここに来てから。
たまには違う場所で寝泊りもありかもしれない。

「え、いいの?」

「当たり前だろ」

誘ってきたのに、ランは戸惑うような表情をする。
それが不思議で俺は小首をかしげた。

「意味、分かって言ってる?」

「意味?意味ってなんだ?」

「・・・大丈夫、なんでもない」

軽くため息をつくと、ランはすたすたと歩き始めた。

「おい、どうしたんだよ!」

「ヴィルヘルムの鈍感っ!」

「え、え?」

膨れた顔をしたランが強い口調でそういうと、俺はあっけにとられてしまった。
なんだかよく分からないが、とりあえず

「週末、楽しみにしてる!」

走り去ろうとするランの背中にそう言うと、
ランはぴたりと止まって振り返る。

「私も楽しみよ!
ヴィルヘルムのばか!」

顔を赤くしながらそれだけ言うと今度こそ走り出していってしまった。

 

 

【初めての恋に5のお題】

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