最近、兄者と一緒にいる姿をよく見かける。
その度に俺はなんだか息苦しくなる。
どうしてなのか、まだ良くわからない。
そんなある日の事。
今日の戦場も曹操軍の勝利だった。
その功績は兄者と・・・関羽にあるだろう。
最近、二人が組むことが多く、二人の相性はとても良かった。
「はぁ・・・」
楽しいはずの宴の席で、俺は知らず知らずため息をついていた。
「どうかしたのか?夏侯淵」
「いや、なんでも!」
兄者が不思議そうに俺を見ていた。
取り繕うように笑って見せると、それ以上は深く追求されることはなかった。
「ふう、みんな凄い楽しそうね」
煽るように酒を呑んでいると、空いていた俺の隣の席に関羽が来た。
今日の働きを労われ、色んな連中に引っ張りだこにされていたのか、
少し疲れた顔をしていた。
「関羽も呑めよ・・・」
「私はお酒、得意じゃないから」
そういいながら俺の傍にあった徳利を手に持つと杯へと注いでくれた。
「夏侯淵もお疲れ様」
関羽はお茶を手に取ると俺の杯へと軽く合わせた。
「今日も貴方と夏侯惇の相性はとても良かったわね」
「・・・そんなの、」
お前と兄者のほうが・・・
そんな言葉が出てきそうなのをぐっと堪え、杯の酒を一気に飲み干す。
酒のせいだけなのか分からないが、喉が焼けるような感覚だ。
「夏侯淵、呑みすぎなんじゃないの?」
「うるさい」
徳利を奪うように掴むと、再び杯をいっぱいにした。
呆れたような困ったような顔で関羽が俺を見ていた。
その表情がなんだか悔しくて、兄者にはそんな顔しないくせに。
俺はどうして・・・
・・・いつもより呑みすぎたのは認める
俺は気付いたら眠っていた。
「ちょっと、夏侯淵?」
私が席に戻ると既に大分出来上がっていたらしい夏侯淵は煽るようにお酒を呑み、眠ってしまった。
身体を軽く揺すると小さい声でうめき声が聞こえる。
(部屋に運ばないと・・・)
夏侯惇を呼ぼうかと思ったけれど、部下と楽しそう(もとい絡まれて)呑んでるらしく、
それを邪魔するのも申し訳ないので、私が運ぶしかないと気持ちを決めた。
「起きて、夏侯淵」
「・・・ん、」
うっすら目を開いたので夏侯淵の腕を私の肩に回し、半ば引きずるような格好で私たちは宴の席を立った。
ふらふらしながら廊下を歩いてるけれど、夏侯淵の身体が重い。
これは夏侯淵の部屋まで運ぶより私の部屋の方が良い、と判断しそのまま私の部屋へと連れて行った。
寝台に仰向けに寝転がらせると、夏侯淵は赤い顔をしていた。
「今お水持ってくるから」
「やだ」
寝台から立ち上がろうとすると、私の腕を夏侯淵が強く引っ張り、私は彼の胸の上へと倒れこむ形になってしまった。
「ちょっと、夏侯淵!」
「どこにもいくなよ」
呂律がはっきりと回っておらず、そして酔っているせいなのか、夏侯淵はいつもより幼く感じられた。
熱を出した時の劉備を思い出してしまい、くすりと笑ってしまった。
「かんう、」
それが面白くなかったのか、不貞腐れたような表情を浮かべたかと思うと私の視界は突然反転した。
一瞬何があったのか分からなかったけど、夏侯淵の上にいたはずなのに、いつの間にか下になっていた。
「おれだって、おまえのこと・・・」
「夏侯淵?・・・っ」
どうしたの?と言葉を続けようとしたけれど、口付けで言葉は飲み込まれてしまった。
夏侯淵の舌が私の唇の隙間へねじ込むように入ってきて、私の舌を吸い上げる。
お酒の味が口の中に広がるのと同時に、今まで味わったことのない快感が私を襲う。
熱っぽい口付けにどうしていいのか分からず、私はされるがままになる。
どれくらいそうしていたのか、唇を離された頃には頭の中はぼーっとしていた。
「かわいい顔すんなよ」
先ほどよりも呂律が回るようになってきたのか、
夏侯淵は私を嬉しそうな表情で見下ろしていた。
「もっとしたい」
「え、夏侯淵っ?」
私の鼻先に軽く口付けると、夏侯淵は着ていた服を乱暴に脱ぎ捨てた。
「待ってっ!」
心の準備が、と言おうとしたのに。
夏侯淵はそのまま私の上に覆いかぶさってきた。
これはもう・・・、と思って目をきつく閉じると、私の耳には彼の寝息が聞こえてきた。
「・・・え?」
夏侯淵の下から抜け出すと彼は満足そうな表情で眠っていた。
安心したような、がっかりしたような。
いや、がっかりなんてしていない。
だって私と夏侯淵はそういう仲じゃないもの。
けれど、先ほどの夏侯淵からの口付けと言葉に私の心臓はまだうるさいくらい高鳴っていた。
「・・・ん、」
頭が痛い。
昨日は宴で呑みすぎたなぁ。
薬師になんか用意してもらおう。
なんて考えながら体を起こす。
「え!?」
俺の隣では関羽が眠っていた。
俺は服を上着を脱いでいて上半身裸だった。
何があったのか、まったく分からない。
どういうことなんだ、と慌てる気持ちと関羽が隣で眠っている事の喜びにどうしていいかわからなくなる。
「とりあえず・・・もう少しだけ」
折角起き上がったが、もう一度横になり関羽の寝顔を見つめる。
そっと耳を撫でながら、俺は気付いた。
こいつが好きなんだと。