彼が私を見つめる時、それはそれはいつもキラキラと恋する乙女のように輝いている。
まぁ、彼がキラキラと輝いてみているのは私ではなくルシファーだということくらい分かっている。
朝食のパンを口に運び、横目でアスタロトを見るとにっこりと微笑まれる。
「ルシファー様、紅茶のおかわりいかがですか?」
「あ、お願い」
「はい!」
他のみんなだって、ルシファーが好きだから・・・慕ってくれているのは分かっている。
今まで周りから疎まれることはあっても、こうやって歓迎されたことはなかったからやはり嬉しくなっている自分がいる。
自分自身を見てほしい、と思う気持ちもそれと同じくらい強くあるがそんな事を言って心地よい世界を手放すことが怖いのだ。
アスタロトが新しく淹れてくれた紅茶を一口飲み、ため息をついた。
朝食を済ませると、ぶらりと中を散歩する。
エイレスの花壇を見に行こうかなとも思ったが、誰かに会いたいわけではないのでやめておこう。
なんだか今日は少し気分が晴れない。
(・・・疲れてるのかしら)
そんな事が頭に浮かぶ。
そんなたいしたことはした覚えはないが、この倦怠感は疲れから来ているのかもしれない。
ぱたぱたぱた、と廊下をかけていく構成員たちが私の姿を見るなり、元気良く挨拶をする。
「お疲れ様です!ルシファー様!」
「お疲れ様」
にこりと笑うと、彼らは少し頬を赤らめた。
その反応はアスタロトを思い出させた。
彼も私の反応に一喜一憂してみせる。
ルシファー様ルシファー様・・・
私はルシファーでもあるけれど、私は私なのに。
部屋に戻り、ベッドに身体を投げる。
今日はもう部屋から出なくていいかもしれない。
そんなことを考えながら目を閉じる。
うとうととしていると、扉をノックする音で目を覚ました。
「ルシファー様、いらっしゃいますか」
コンコン、と何度も叩かれる扉に向かって口を開く。
「いるわ」
「入ってもよろしいでしょうか」
「ええ」
私の返事を確認すると、アスタロトが部屋へ入ってきた。
彼の手には、ティーセットと、クッキーが見えた。
「お茶でもいかがですか」
「・・・そうね、いただくわ」
テーブルにティーセットを置くとカップに丁寧に注がれる液体を見つめていた。
「アスタロトも飲まない?」
「え?わ、私ですか?」
予想していなかったのか、私の言葉に目を丸くする。
「あなた以外ここにはいないでしょ?一人で飲むよりも二人の方が美味しく感じると思うから・・・」
「・・・っ、それでは、カップを取ってきます!」
「私の部屋にあるのを使えばいいじゃない」
私の部屋にもティーセットは用意されている。
それを知らないわけがない。だってアスタロトが用意してくれたんだから。
「・・・それでは、お借りします」
アスタロトが私のために用意してくれたティーカップは真っ赤な薔薇があしらわれたカップだ。
少女趣味・・・とも思うけど、私のお気に入りのカップだということは誰にも言っていない。アスタロトが淹れてくれた紅茶・・・これはハーブティーか。
ほんのり甘くて、優しい味がした。
「落ち着く味がする」
「これはカモミールティーですよ」
「そうなんだ、美味しい」
色もきらきら輝いてみえる。
それがまた安心させてくれるようで自然と微笑んでいた。
「今日、あまりお元気がないようだったので・・・少し心配していました」
「え?」
「差し出がましいとは思ったのですが、こうして部屋へ来てしまいました・・・。
申し訳ありません」
「・・・そう」
これは私への好意じゃない。
これはルシファーへの好意だ。
私は、私のものが欲しい。
「・・・アスタロト」
「はい」
彼をじぃっと見つめる。
私が見つめるだけで頬を赤らめるのに、私を見ていない。
頬に触れようと、アスタロトに手を伸ばした。
「ル・・・ルシファーさま」
ぴたり、と手が止まった。
「私は、ルシエルよ」
「・・・ですが、」
「ごめんなさい、気分が優れないから眠りたいの。
出て行って」
飲みかけのカモミールティー。
手をつけていないクッキー。
悲しげな瞳をしたアスタロト。
全部が私を責めているみたいだった。
アスタロトは何も言わずに部屋を去った。
私はアスタロトに何か期待していたんだろうか。
ルシファーじゃなくて、私が好きだといってほしかったんだろうか。
分からない。分からないけど、ただ胸が苦しかった。