「あどにす殿、恋とはどんなものであるか?」
何冊か山積みにしていた本を読み終わったが、今自分が抱えている感情がなんなのかイマイチ分からない。
あどにす殿に問いかけると、驚いたように目を丸くした。
「神崎、なにかあったのか」
「な、なにかあったというわけではないのだが・・・なんというか、」
最近、気づけば目で追ってしまう。
誰かの元へ駆ける姿を見ると、どうにも心が落ち着かない。
かといって、自分の下へ来られるとまた心が落ち着かない。
「あんず殿を目で追ってしまう」
「・・・あんずを?」
「うむ。だからもしかしてこれが『こい』というものなのかと思って色々と読んでみたのだが、どうにもしっくり来ないのだ」
「・・・恋、か。改めて聞かれると、どういうものなんだろうな」
あどにす殿が考えるように目を閉じる。
それにつられて、自分も目を閉じた。
思い出すのは先日のことだ。
-約束をした。
それはただ、アイドルとプロデューサーとしての約束だ。
けれど、指きりを交わしたあの日から、小指が特別なものに思えた。
二人でうーんうーんと唸ることしか出来ず、結局答えは出なかった。
そして、あどにす殿と別れた後も一人で唸り続けていた。
れっすんするために一人で移動していると、後ろからぱたぱたと足音が聞こえた。
振り返ると、あんず殿だった。
「神崎くん、こんなところにいた!」
「あ、あんず殿!」
「今日、次のステージの衣装の採寸をとるっていってたでしょ?」
「む、忘れていた」
「紅月ではかってないの神崎くんだけだから、はやく測りましょ」
「あ、ああ」
なんだか気の抜けた返事しか出て来ない。
それでも、あんず殿は気にせず、我の手を引いて歩き始めた。
(・・・手、)
あまり他の人の手に触れる機会なんてない。
だけど、自分の手と違ってあんず殿の手は小さくて、やわらかく感じる。
小指をからめた時も感じた熱を、今手のひらから感じている。
ぎゅ、と手を握り返すと驚いたようにあんず殿が振り返った。
「い、いや!ただ、純粋に!手が離れてはいけないとおもっただけで!決してやましさから!」
「ちょっと驚いただけだよ、大丈夫」
狼狽する自分と違い、あんず殿はなんでもないように笑った。
そうか、他の人にもこうしてやるのだ、あんず殿は。
それはぷろでゅーさーとしてなんだろう。
だから、今繋がっている手はなんでもないのだ。
「・・・大丈夫じゃないほうが、」
「え?」
「・・・っ!なんでもない!ほら、さっさと移動しよう!」
自分が何を口走ろうとしたのか。
ごまかすように笑ってみせると、あんず殿も笑ってみせた。
恋とは、苦しいものなのか。